旅立ちとはしご
文字数 2,110文字
2日後の正午、カフェにて。
「謎の爆発事故から二昼夜を経過し、ウィッチブリーディング&サービス社(以下ウ社)は倒産手続きに入ることを発表した。
ウ社は拷問局からの業務委託を受けて家畜用魔女の育成・流通を幅広く手掛けており、業界の混乱は避けられないものと思われる」
「事の起こりは2日前にさかのぼる。
今なお原因不明の連続爆発事故により、ウ社のオフィスビルは3階から5階にかけて外壁が崩落。晩の爆発では倉庫スペースが吹っ飛んだものとみられ、保管されていた書類や制服が辺りに散らばった。
夜空から降り注ぐ500人分10年間のタイムカード記録は、さながら紙吹雪のごとし。近隣では、紙幣と間違えて野次馬が群がる騒ぎも起こった」
「このタイムカードがウ社の運命を決する。散乱したタイムカードは大半が改ざんされており、それを指示したものとみられる書類も大量に見つかった。打刻用マシンは違法改造されており、いかな長時間残業も月40時間に収まるよう自動的に改ざんされていた。
翌日、ウ社は事態の火消しを図り、社員全員に口止めと口裏合わせを強要。かえってそれにぶち切れた社員たちが決起し、なだれを打って労基署へ駆け込んだ」
経営陣だけチェンジして、裁判所の任命する人が再建に取り組む感じだね。
まあ、国の仕事に穴は空けられないから。特殊な業界だから、ウチが無くなったら代わりがいないんだよね。いや、いなくはないけど。
労働環境、これでマシになるといいねぇ……。
バッチグー。
現場リーダー、口裏合わせてくれたよ。あの場におれらはいなかったって方向で。
どうせもうメチャクチャだから別にいいよって。「っていうか俺も記憶に自信がない、なんかお前赤ん坊と飛び降りたように見えたけど、さすがに夢だよな。寝不足って怖いな」って。
伝説の拷問器具を「はしご」って呼ぶのはね、拷問があたしらのはしごだからなんだよ。はしごを登るように、魔女のレベルを一段ずつ上げていくのが拷問器具の本来の使い方なんだ。
本当の「はしご」はあたしらの中にあって、それをちょっとずつ登って行くのだよ。……言い伝えではね。