野性のメイドがあらわれた！
文字数 1,832文字
うわっ！
つ、躓くところだった。
外は月が出てるが、雨戸を締め切ると真っ暗闇だな……。
……外には何もいない感じだな。確かに物音はしたんだが……。
風で何か飛んできたのかな。
（今のうち…………。）
ゴトッ
！？
誰かいるのか？
って、ピカールが戻ってきたのか。そうだよな。
おい、脅かすんじゃねえよ。
……………………。
いや別に驚いてねえけど。
び、ビビってねえよ。ほんとだよ。
……………………。
ひゃっ。
ど、どした。何で抱き上げるんだ？
（このまま外に…………。）
どっか連れてくのか？ 一人で便所に行けないってわけじゃあなかろうな。
おい、何とか言えピカール。
ピカール……じゃ、ねえなお前。あたしを掴んでる腕が、つ、冷てえもん。
だ、誰だお前、っていうか、何だ……
うわーーーーっ！！
なんだ！？ どうした！？
ぴ、ピカール。魔女さらいだー！！
くっ！ 御免、走ります！
何だこいつは！ おい、止まれ！！
タックル！
投げ技だーっ！
ぐえっ！！
ん？ このシリコン製の胸の感触は……。
ドニエか、お前。
はい。
お久しゅうございます、姫様。
この賊を処分いたしますゆえ、そのまま少々お待ちください。ステルスモードから戦闘モードに切り替えます。切り替えました。
いててて……。な、何がどうなったんだ？
賊は人間と判断します。したがって、殺害行動と無力化行動のいずれかを選択します。
先ほどの施行から、武器の所持はなし、戦闘力は低と判断します。総合的な危険度の評価は低です。それゆえ、殺害あるいは無力化にかかるコストは同じ程度と判断します。
それゆえ、後の憂いをなくす観点から殺害を選択します。
何なんだあんた！？
脳幹の破壊を目標とします。戦闘行動スタート……
ああ、待った待ったドニエ。おすわり。
はい。
こいつは賊じゃない。安全だ。
はい。戦闘モード終了します。終了しました。日常会話モードに切り替えます。
姫様、どういうことですか？
まあ、とりあえず屋内に戻ろうか。おすわりやめ。
はい。
……な、何なんだ、その人は？
一行は廃墟に戻った。
乳母？ お前の？
ああ。あたしが生まれた時にお父様が買ってくれたんだ。
魔女でも人間でもなくて、魔法で動くゴーレムの一種だ。
へえ、すごいな。こんなに自律して動けるゴーレムなんて見たことないぞ。
人工の魂みたいなものが入ってるんだってさ。えーあい？ とか言ってたっけな？
あたしと一緒に人間に捕まったかと思ってたけど、逃げ延びてたんだな。
はい。ご無事で何よりです、姫様。
状況からして、野卑な拷問官に監禁されているものと思いましたので。救出を試みた次第でございます。
まあ、そいつ拷問官だけどな。
なんと。
なぜ、敵性種族である人間の拷問官と行動しておられるのですか。やはり、既に拷問で操られているものと判断します。おいたわしい、この男は即刻排除いたしますゆえ……
待て待て！ そいつはあたしの婿にするんだ。そして伝説の「はしご」を全て集めて、魔女王の座を継がせることにした。
さすがは姫様、２さいにして将来をお見据えになっておられます。
不安になるくらい理解が早いな。
乳母だからな。
まあ、そういうわけだから。仲良くしてやってくれ。
はい。
先ほどは失礼いたしました、若旦那様。改めまして、乳母のドニエと申します。
ど、どうも。ピカールです。
この私の使命は、姫様を強く残忍な一人前の魔女にお育てすること。微力ではありますが、一命を賭してお支え申し上げます。
はぁ。（ものすごく真っすぐ目を見てくるな……）
ですからどうか。
（て、手を握る力が強い。距離が近い）
姫様を王妃の座までお導き下さい。（むにゅっ）
むぐっ、何を……！？
個体登録だ。瞳の模様と、手の血管と、顔紋。それらのデータを採取して、お前を認証できるようにするんだ。
つ、冷たい……。
あれ、しかし柔らかいな。
手触りも滑らかで、弾力があって、温度以外はほとんど人間の肌みたいだ。これはどういう素材なんだろう？
くききっ、心地よかろ。
ドニエを作ったのは外国の技師だと聞いてるぞ。はるか遠くに人間の技師の国があるらしい。
それにこの自律的な動き、一体どういうプログラムで組まれてるんだろう。すごいなあ……
（おい）
えっ？
（私は認めんからな……）
！？
あ痛っ！
指先からの採血、終了しました。これで個体認証は完了です。お疲れ様でした。
あ、採血もあるんだった。
それでは、若旦那候補様、今後ともよろしくお願いいたします。
……よ、よろしくお願いします……。
（じ、「自律」ね……。どれくらい自律なんだろう……）
