友達の友達は知らない人作戦

文字数 1,880文字

オラオラー!  判事様の軍団のお通りだ!
ひええ!  お許し下さい!
職のねえ奴は俺んとこに来い!  ショッピングモールの拡張で大忙しだ。人手はいくらあってもいい!
行きます!
私も!
併設の社員寮に入る権利をやろう。モール内にスーパーや100円ショップがあるから、生活必需品を買うといい。
しめた!  福利厚生は?
正社員扱いだから社会保険はある。


有休消化率は7割くらいかな。消化率を高める策として、映画館とかで使えるクーポンを毎月配布してる。これはなかなか好評のようだ。

ヒャッハー!
待ってくれ、若者を連れていかないでくれ!
YOYO、ほっといてさあ行くぜYO!
* * * * * *
……という感じで、判事の兵はリクルートしながら進撃してきてるっす。
ふむ、偵察ご苦労。


この様子だと、荷がモールに着くのは明日だな。

にしても奴らの募集要項、ホワイトっすね……。地元にあんなシゴトそう無いっすよ。
まあ、地域にも取り組むべき課題はあるかもしれんが、にしたって法院のグローバル推しはえげつねえよ。
奴らは「そうした方がトータルで国力が上がる」みたいな話をするが、それで結局あたしらの人生は良くなるのか、見通しがどうなのかってことははっきり言わねぇよな。


そこんとこ濁した「トータル」が誰のための「トータル」なのかってところだ。ぼーっとしてたら、あたしらいないことにされちまうよ。

税務署以外からな。
よく分かんねーけど、俺らは姐さんについてくっす!
おうよ。


あたしらはジモメンとしてやれることをやろう。

さて、そういうわけでピカール。作戦はできたか?
一応できた。
早速聞かせてくれ。


ていうか、この前ルイズちゃんが何か言ってたのは結局何だったの?  「魔女狩り将軍」がどうとかって。

あ、ああ。多分、ニュースか何かで聞いた話を喋ってたんだろう。何しろ2さいだからね……。
2さいじゃ仕方ないな。
ボゲの配下に「魔女狩り将軍」って呼ばれてる奴がいるのは、本当らしいが。
らしいね。
で、どうする?  荷が着く前では駄目、着いた後でも駄目なら、どういう作戦でいく?
うむ。そこんとこだが……

* * * * * *

その日の夜、宿屋にて。
それで……?
着く前には敵兵がいて駄目、着いた後にも敵兵がいて駄目なら……。


着いた時、受け渡しの瞬間を狙うしかない。これだ。

いやいやいや、ちょっと待て。受け渡しの瞬間って、敵兵が2倍いるだけじゃねえのか。輸送部隊とモールの護衛と。


余計に無理じゃねえか。

ドンキに行って警備員の服を買ってくるんだよ。
ドンキって「ホーテドンキ」?
ホーテ氏が鈍器専門店として始めて、やがて雑貨を手広く扱うようになったという、あの。
そうそれ。


そこで仕入れた警備員の服をみんなで着て、下請け業者のフリをするんだ。そして隙を見て荷物を持ち逃げする。

いくら何でもバレるだろ。
しかも変装なら、なんでわざわざ敵の部隊が揃ってる場でやるんだ。その場でそいつら同士が確認し合ったら即バレじゃねえか。
そこだよ。実は、敵の部隊が揃ってるからこそバレにくいんだ。
どゆこと?

人間、一人でいる時に知らない人物が話しかけてきたら警戒するのが普通だ。しかし友人と二人でいる時に話しかけられたなら、「友人のほうの知り合いだろう」と考えるものだ。

そして同じ職場でも、隣の部署が何をしてるかということは詳しく知らんものだ。
つまり、二つの部隊が一堂に介する時に堂々と並んで出ていけば……。


両方の部隊が「あっちの部隊が雇った下請けだろう」と勘違いしてくれる可能性が高いんだよ!

マジかーーーーーー!
マジマジ。オフィスに知らない人いても「何らかの取引先だろう」と思って挨拶するでしょ?
ほえー。確かにそんな気がするなあ。
ダメそうな雰囲気だったら逃げればいいしな。
はぁ……。よく思い付くもんだなあ。
別におれの思い付きじゃないさ。詐欺とかの手口としてよく報じられるやつだよ。


……もう遅いな。明日があるし、俺はもう寝るよ。

おう……。おやすみ。
おやすみ。
…………。
ここんとこテンション上がんねえ理由。


胸につっかえるものの正体、じわり分かってきたな……。

ピカール、あいつはなかなかデキる奴だ。ダメ人間かと思ってたが、交渉したり計画したり、人間的なことが得意でやがる。

では、あたしはどうだ?  あたしは何ができるだろう。

チームとして必要なのは何か。


あたしの想い、あたしが今欲しているもの。


それは……

力では?
そう力!  力が欲しい!!
絶対的な力がっ!
ねじ伏せる力が、冷酷なる精神が、全てを支配できる専制的な権力が欲しい!
特訓に付き合ってくれるか、ドニエよ。
よろこんで。
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登場人物紹介

マチュラン・ピカール

種族:人間
魔女と人間が争うファンタジー世界で、拷問官としてブラック労働に従事している男。転職したいがそのアテはなく、毎日ルーチンワークで魔女を拷問している。

ルイズ

種族:魔女
強大なる魔女王の60番目の娘。2さい。権力が大好きで、次代の王妃となって世の中をほしいままにすることが夢。そのために婿を必要としている。

シニストラリ

種族:人間

ピカールの同僚の性魔学者。研究以外のことを一切気にしない変人。魔女の結婚式を自らの目で調査することが目標。

アニー・ボゲ

種族:人間
潔癖症の裁判官。みだらなコンテンツを徹底的に嫌い、あらゆる権限を行使して風紀の引き締めをはかる。しかし本人はやや露出狂ぎみ。

ジャンヌダルク

種族:人間
盗賊団の首領。部下にはベタベタに甘いが、収奪をはたらく相手に対しては残虐で血も涙もないハードヤンキー。部下からの人気は高い。

ドニエ

種族:ゴーレム
ルイズの乳母。魔法によって作られた魂なき土人形で、AIに従って冷徹かつ無感情に行動する。……はずである。

マシュー・ホプキンス

種族:人間

「魔女狩り部隊」随一の戦士にしてボゲ判事の部下。常にドクロの戦化粧を施している恐るべき男。

ミセリコルデ

種族:魔女

とくに王族とかではない魔女。亀甲縛り姿で荷馬車に囚われているところをルイズたちに見つかるが……。

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