隠れ家BARでのんびりしよう
文字数 1,717文字
数日のち、一行はジャンヌに案内され、閉店後のバーで夜更けを過ごしていた。
うーぃヒック。やってられっかよぉ〜。
マスター、スコッチおかわり！
あ……姐さん、このちびっ子もう10杯目ですよ……。
お宅の教育方針はなかなか結構だな、ピカールちゃんよ？
おいルイズ、ご馳走になるからって飲みすぎだぞ……。ちょっとは遠慮ってものをだな。
（飲酒は許容するんだ……。）
（えっと、私が姫様の母ということになってるわけだから……何か母親っぽいことを言わなくては……）
あ……あんたの躾がなってないんだヨ、ピカールこのとうへんぼく！ 姫様……じゃなくて、ルイズはちっとも悪かぁないのにさ！
そ、そう言うなよドニエ。おれなりにこの子のことを想ってだな……。
のびのびと……そう、のびのびと育って欲しい。子供には。
（や、やりづれえ〜…）
なんだい、失業者のくせして偉そうに。のびのびしているのはあんたのオツムだけで十分だよ。
（罵倒が重い）
し、失業中なのは何も個人の責任だけじゃないぞ。こういうことには時節というものがだな。
それに、何も会社勤めだけが社会参加じゃない。これからは自分に合った働き方を選んでだな……
だまらっしゃい。
そんな多様なライフスタイルを受け入れるようなことを言って、ルイズが傲慢で無慈悲な独裁者に育たなかったら、あんたのせいですからね。
（ああっ、私、姫様を呼び捨てにしちゃってる……！）
スコッチぃ〜〜。はやくしろよぉ。
……姐さん、本当にこんな奴らと組むんすか？ うちらの和が乱れるんじゃないすか？
わはは、まあそう言うな。
今時駆け落ちなんて人情のある話、この地元でも滅多と聞かねえ。うちらが一肌脱いだろうじゃぁねえか。
ほれちびっ子、スコッチだ。合間にチェイサーも飲めよ。
分かってらい。ヒック。
スコッチなんてものがある世界なんだなあ。これ、上等なやつじゃない？
おう、北の方から仕入れた舶来品よぉ。うちらよりスコッチ（少し）北にある国の名産品だから、国内じゃスコッチって呼ぶ品だ。
独特のスモーキーな香りがクセになるだろ？
地獄の煙が燃え立ってくるようだぜい。
おれはあまり好みじゃないかなあ。
バーボンとかもあったりするの？
当然あるとも、ほれっ。
バーに来て酒を頼んだらボンと出てくるくらいポピュラーだから、バーボン。ワイルドな味わいが魅力だよな。
そうそう、やっぱコレだね。
なんだいあんた、気取っちゃってさ。
……でも、せっかくの機会だし。あ、アイリッシュ・ウイスキーってあるかしら？ あれよ、「そのまろやかさから愛を」……
「そのまろやかさから愛を学べ」と言われるほど優しい口当たりだから、「愛・履修」と名付けられたアイリッシュだろ？ あるんだな、これが。
ショットグラスにストレートでいくのが現地の飲み方だ。
大した品揃えなのだわ。
だろ？ ま、全部盗品なんだけどな。
あ……やっぱり？
おう、あたしらは盗賊もやってんだ。ここは盗品倉庫を兼ねてるから、これが本当の隠れ家バーってな。
いや、勘違いしてほしくねぇが、これも地元を守るためなんだ。義賊って奴だよ。
近頃はグローバル企業が法院と組んで、地方の市場を荒らし回ってやがる。そのせいで地元の小さな商店はどんどん苦しくなってる。
あたしらは、連中からカッパラって地元に利益を還元してるんだ。
なんだか分かんねえが、おれらは姐さんについてきますよ！ また大きな仕事があるんすよね？
おうよ。ピカやんたちには説明したが、来週、ショッピングモールの倉庫に何やら物資が運び込まれるらしい。あたしの情報網に引っ掛かった話だ。
どうも法院が絡んでいて、表沙汰にしたくない動きがあるようだ。
モールって、おれらが映画とか観に行ってるとこっすか？ どういうことっすか？
「カネの匂いがする」ってことよぉ。
同時刻、某所にて。
……よろしい、まずまず予定通りですわね。議会の承認は降りた。あなたも程なく、正式に法院付きとなることでしょう。
はい、マダム。
「物資」運搬の件も手はず通りでしょうね？
「魔女狩り部隊」筆頭、マシュー・ホプキンス。あなたに出てもらうほどのことは無いでしょうが、一応、警備の配置を確認しておいて下さいな。
承知いたしております……。
