次の旅へつづく

文字数 2,029文字

ジャンヌたち行きつけの酒場にて。
赤んぼのー。ちょっといいとこ見てみたい〜。
♪のんでのーんでのんでのんでのーんでのんで
うぇ〜い。くききききっ!
矢でも鉄砲でも持ってこーい!
わははは……!
…………。
お、ここにいたかピカチャン。


飲んでるか?  こんな隅っこで何してんだ?

いや……。ちょっと疲れちゃって。


分捕り品の整理は終わったの?

おう、お陰さんでいい実入りだ。


あ、嫁さんにも分け前をやんなきゃな?  何が欲しい?

え……。
いや、おれらは約束の身分証がもらえればそれでいい。気を遣わんでくれ。


いつ受け取れるかな?

んだよ、そっけねぇな。マジであの牛の頭のガラクタだけでいいのか?


後から揺すったりなんてしないよ?

いやいや、そんな疑いは持ってないよ。揺する気あるなら偽造身分証の時点で抜き差しなんないし。


ただ、酔い潰れちゃう前に約束をはっきりしときたくてさ。

酔うほど飲んでもねぇくせによ〜。


おたくの旦那は食えねえ奴だな、ドニエちゃんよ?

はぁ。


まあ、その……。助けて頂いてありがとうございます。私、あそこでエネルギー切れになってしまって……いや、気絶してしまってて。

いいってことよ!  失敗は誰にでもある。
で、まあ、身分証の件だが。


偽造できる奴は山二つ向こうの村にいる。元画家のグリーンって野郎だ。

グリーン……?


それってバルドゥンク・グリーンか?  春画絵師の?

だったかな?


全部知ってるわけじゃねえが、帝都でヘマこいて逃げてきたらしい。表向きは、違法薬草所持のカドで指名手配されてるがな。

そうか……。どうすれば会える?
いや、案内するよ。あたしが直接話さなきゃ駄目だ。
……一緒に歩きたくない?
つるんでるのは敵さんにバレてるから、他人のフリしたって意味ないんだけども。


ぞろぞろ歩いたら目立つかな~、とは思うんだよな……。

よそ者夫婦の徒歩旅行の方がよっぽど目立つよ!


大丈夫、子分をぞろぞろ連れて歩く訳じゃねえ。あたしと、あと護衛に二人ほど選んでついてくよ。

分かった、お願いするよ。
おうピカール、何をこそこそ話してんだぁ?
おう、ルイズ。そういう訳で、明日あさってのうちには出発するからな。飲みすぎるなよ。
どういう訳だよ!  わははは!
うっ酒くせえ、ひっつくな!
…………。
ピカチャンよぉ。
ん、何?
なーんか、お前とルイズちゃん、父娘って感じじゃねえんだよなあ。身分とかを考慮してもさあ。
ぎく……。そ、そーかな?
(あの……。なんかもう、そこ隠さなくていい気がするんですが。私もやりづらくて……)
(いやまあ、そうなんだけど。今更訂正しづらいというか……)
気まずそうなアイコンタクト……。


ピカール、お前まさか……。

いや、実はですね。
…………アツい野郎じゃあねぇか。
姉妹と重婚たぁ、この国じゃ憚りのねえこった。
は?

ルイズちゃんが、ほんとはドニエちゃんの妹なんだろ?  そんでどっちにも手を出したって訳だ。


いや、嫌いじゃないぜ、そういう方向の思い切りっつうのもよ。
そんくらいアツい方がおもしれぇ。よその国じゃあどうか知らねえが、ウチらの文化圏においてはな。


おう、頑張りなよ?

あー、その。どこから言ったらいいものか……。
わはは、いらんいらん!  あまりのろけてくれるな。


じゃ、また後でな。

…………。
何でこんなことに……。
* * * * * *
…………。
申し訳ありません、ボゲ様。
盗賊にいいように振り回され、魔女を取り逃がし、あまつさえ「雄牛の皮」像を破壊された、と……。

 

随分と華々しい戦果ですこと、「魔女狩り将軍」さん?

申し訳ありません。
…………。
判事様ぁ、そこまで言うこたないじゃねえですか。


逃げた魔女が賊どもとつるんでたのは想定外だったし。「雄牛の皮」は壊されはしたけど、大部分は残ったし、使い方も判明したし。今後の研究にとっても大きいはずだよ。

そもそも、賊に荷を任せてしまったのは判事様ご自身……

控えろ!
ビシッ!!
ぐぇっ!
……魔女の躾もなっていないようね。
不始末、重ねて申し訳ありません。
とはいえ、まあ。


こんな下賤で淫らな生き物を使わねばならぬという、あなたの任務の困難さも考慮しなくてはならないわね。

わたくし、怒っているわけではなくてよ。


奪われた荷など、わたくしにとっては財布に溜まる小銭の如きもの。

わたくしの言いたい事はですね、万が一にも、こんな魔女などに影響されて気が抜けることがあってはならない、ということです。


分かっているとは思いますけど。

はっ、肝に銘じて参ります。
ときに、我々がここに立ち寄った理由。


「あれ」を使わなかったのは何故ですの?

……「あれ」を使うにはまだ訓練が足りません。制御に不安が残ると判断しました。
次には使えるようになってるかしら。
それは、一身に代えましても。
いいでしょう。下がりなさい。
はっ。
…………。
ミセリ、余計な事はするな。
へへ、すいません。
……お前は必要な人材だ。俺を庇おうなどとはするな。
いずれにせよ、次は失敗できん。


訓練を繰り上げて詰めていくぞ。

はぁい♪
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登場人物紹介

マチュラン・ピカール

種族:人間
魔女と人間が争うファンタジー世界で、拷問官としてブラック労働に従事している男。転職したいがそのアテはなく、毎日ルーチンワークで魔女を拷問している。

ルイズ

種族:魔女
強大なる魔女王の60番目の娘。2さい。権力が大好きで、次代の王妃となって世の中をほしいままにすることが夢。そのために婿を必要としている。

シニストラリ

種族:人間

ピカールの同僚の性魔学者。研究以外のことを一切気にしない変人。魔女の結婚式を自らの目で調査することが目標。

アニー・ボゲ

種族:人間
潔癖症の裁判官。みだらなコンテンツを徹底的に嫌い、あらゆる権限を行使して風紀の引き締めをはかる。しかし本人はやや露出狂ぎみ。

ジャンヌダルク

種族:人間
盗賊団の首領。部下にはベタベタに甘いが、収奪をはたらく相手に対しては残虐で血も涙もないハードヤンキー。部下からの人気は高い。

ドニエ

種族:ゴーレム
ルイズの乳母。魔法によって作られた魂なき土人形で、AIに従って冷徹かつ無感情に行動する。……はずである。

マシュー・ホプキンス

種族:人間

「魔女狩り部隊」随一の戦士にしてボゲ判事の部下。常にドクロの戦化粧を施している恐るべき男。

ミセリコルデ

種族:魔女

とくに王族とかではない魔女。亀甲縛り姿で荷馬車に囚われているところをルイズたちに見つかるが……。

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