魔女の心
文字数 1,818文字
おい、無茶言うんじゃないよ。退く時は退くのが作戦ってもんだろ？
やだーーーー！！
わがまま言わないの！
どうだ、そっちの馬車は？
こっちにゃ賊はいねぇ。
次はこっちだ。
ほら、敵が近付いてきてる！ 包囲されたらおしまいだ！
やだやだ、「はしご」を持って帰るんだぁ……。
じー…………。
（まぁ、ありふれた魔女だねぇ。
後先考えない行動、ノリと勢いに任せる性格。珍しくもない……）
＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊
どっせい！
ぽぎゃっ。
よし……。姫様、今参ります！
あの輸送馬車のうち、どれかに姫様が……。音で調べてみるか。
聴覚リミッター調整。範囲50メートル、感度20倍にセット。
…………。
（ヒュンッ）
！！
何奴っ！？
視野の外側から打った鞭をかわすとは……。
貴様こそ何者だ？
お前は……！
キエーッ！！
（ヒュッ）
バシッ！
…………！
その反応速度、作り物めいた腕の感触。覚えがあるな。
……前の戦場で魔女をかばっていたゴーレムか。
（拳の角度をわずか逸らされた）
（この技術……間違いない、姫様がさらわれた時「魔女狩り部隊」を率いていた男だ）
……あの時とは状況が違う。一対一なら対応は可能と考える。
何故ここにいる？ ……いや、おおよその察しはつく。
あの魔女は逃げたと聞いている。付近にいるな。
問答無用！ イヤーッ！！
＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊
おい、ルイズ！
やだ〜〜〜～。ううっ……。
……ねぇ、人間さん。なんでそんな魔女と一緒にいるんです？
…………。
魔女ってなぁ、こういう生き物ですよ。人間みたいに計画的に考えたりはできないし、自分の欲求を抑えることもできない。
あなた拷問吏さんでしょ。分かってるんじゃないかなぁ。
いや…………。どうかな。
しかし、この状況では……。
おい、中から話し声がするぞ！
ウッ、見つかったか！？
う……。
うわあああああ！！
ガターン
ガラガラガラッ
！？
何の音だ！？
ル、ルイズ！？ 荷を……
クソッ、戸が開かねえ！ 皆、手を貸してくれ！
扉近くの荷を崩したのか。おい、大丈夫か！？
下敷きじゃないか！
げほっ、げほっ。
うう……。
はぁ、立て籠ったって仕方ないでしょうに……。
これで追い詰められましたね。
ピ、ピカール……。ぐすっ。
わ、分かってんだ。お前の言うことの方が安全だってことは。
あたしにゃあ、お前みたいに順序よく考えることはできねぇ。お前は有能なヤツだ。ドニエも、ジャンヌの奴も。
あ、あたしも力が欲しい。権力は元々欲しいが、それはそれとして。あたしはただ……。
……ああ、一理ある。それで行こう。
あたしはただ、あたしも役に立ちたくて……
えっ？
えっ？
お前の言う通り、「安全に行きたいだけ」ならそもそも仕事を辞めることもなかったんだ。リスクを取ったり、不安定になりたくないならあのまま続けてりゃよかった。
おれはそうじゃなかった。
何かに賭けたかったから、お前の話に乗ったんだ。
確かに、どういうわけか判事が「はしご」を集め始めている以上、ここを逃したら二度と機会はないかもしれん。
ここも賭けるところなのかもしれん。
そうした方が面白そうだ。
…………！？？
ぁ、ぁあっ。
そ、そういうこったな！
や、役に立ちたいってのはその、チームとしてだなぁ。個人的な感情ではなく、ギブ&テイクが成り立つようにだな……。
うん、お前の判断はアリだ。
…………？？
あ、あなたがた……？
人間さんの言うことも変わってるが、魔女のほうも変ですね？ 何なんです？
こいつはなぁ。
あたしが魔女王にする男よ。
おらーっ！
駄目だ、開かねぇ。もうぶち破るぞ！
あわわ忘れてた、どうしようピカール！？
うむ。
お前、さっき荷物を崩す時どうやった？
え、どうって？
……この荷物、押して倒すだけなら、確かにそれほど力は要らなさそうだが。
にしても、お前一人でやったにしてはあまりにあっさり倒れたもんだ。
そりゃあれだ。火事場ドロボーって奴じゃねえか？
ちげ、火事場の。火事場の……えーと何だっけ……
以前「はしご」を見つけた時も、お前のパワーが一時的に上がってた。
もしかして「雄牛の皮」像の近くにいるだけで、お前の身体が何か反応してるんじゃないか？
そっか、そうかも！
じゃあピカールが持ってる「ペンチ」で、この場であたしを拷問すれば……。
この像くらいは持ち上がるかもしれん。
やろう！ やってくれ！
試してみるっきゃない。
ああ。
影響範囲は腕と背筋と……。あと足腰も刺激しなきゃいかんな。
ツボは６か所、血流の方向と湿り気は……と……。
……………………。
せーの！
おらーっ！
