昼からお酒を飲みに行こう

文字数 2,059文字

数日後の昼下がり、ピカールたち一行は平野を進む。
もうそろそろ次の村が見えるはずだが。
疲れたよー。はやく肉食いてえ~、ビール飲みてえ~。
お前は歩いてないだろうが。
運ばれるってのも結構疲れるもんだぜ?
申し訳ありません、私の抱き方に不備がありますでしょうか?
いや、別に大丈夫だけど。そろそろピカールの乳母車に戻してもらおーかな。
差し支えなければ、今後のサービス向上のためアンケートにお答えください。なぜ、乳母車に戻る必要があるでしょうか。
なんでって……。必要ってほどじゃないけど、ダッコは飽きたし、車の方が寝っ転がれるからラクかなあ。
そうですか……。
(チッ)
今舌打ちしなかった?
若旦那様、荷運び役を交代させていただきましょうか?
いやいいよ、ドニエさんにも結構持ってもらってるし。車はおれが押すよ。
私は使用人ですし、ゴーレムとして10馬力くらいのパワーは出ます。私に全部お任せになりませんか?
いやいや、そんな沢山の荷物を一人で運ばせたら傍目に目立つだろう。おれら人目を忍んでるんだから、人間っぽく振舞ってもらった方がいいよ。
ドニエ、持たせとけ持たせとけ。道は長いんだから焦っちゃいけねえ。みんなで分担してゆったり行くとしようぜ。
はい。
自分で歩いてない奴が言うと釈然としないな……。
お、粉ひき小屋だ。村のはずれに着いたな!
ドニエ、荷物全部持ってマッハで酒場を探せ。あたしは肩車で。
はい。
ちょっ、待てお前ら!
10分後……。
ぜえ、ぜえ、はあ。お前ら、ちょっとは人目をだな……。
「大衆酒場・樽々亭」

よっしゃ、ここに入ろうぜ!
はい。
先に宿を探さにゃならんだろうが……ってもう入っちゃった。
おっちゃん、生ビール2つと枝豆! それと何か肉ある?
……鶏なら用意がある。そっちの兄ちゃんは。
あ……じゃあ梅酒で。
……ウチにはないな。ワインでいいか?
じゃあそれで。
……まったく、お前ら少しは計画性というものをだな。暮れるまでに宿を探して、無かったら泊まれる場所を探さにゃならんのだぞ。
まだ日が高いし、だいじょーぶだいじょーぶ。一杯飲んでくだけだって。
宿なら、私が探してきましょうか?
あー、ちょっと経ったらお願いしよーかな?

ピカール、宿の手配くらいなら任せていいよな?
まあ、それなら目立ちはしないな。ぱっと見は人間の使用人と変わらないし。
……ビールとワイン、それと枝豆。お待ち。
ひゃっほう♪

かんぱ~~い!
やれやれ……。
ごっごっごっ。

ぷあ~~っ。
あーーーー。これだね。

運動の後はこれだね。うん、昼から飲むビール最高。

ドニエも飲め飲め。
いただきます。
運動してないだろお前は……。

あれ、ドニエさんって飲食できるんだ? 確か、ここまで何も食べてなかった気がするけど。
両刀ってやつだな。

ドニエは魔法で動いてるけど、食べ物から魔法力を引き出すこともできるし、土地に漂っているエネルギーを吸収することもできる。飲まず食わずでも歩き続けるくらいはできるんだ。
すごいなあ。
……焼き鳥串、お待ち。
ど~も~。あ、ビールおかわりね。
はいよ。
……しかし、何だな。

静かな店だよな。っていうか、結構荒れ果てた雰囲気だな。客はポツポツ入ってるけど。
(ヒソ……ヒソ……)
(よそ者……)
そーか? 言われてみれば、壁の落書きとかすごいけど。
そう、この落書き、なんか見覚えあるんだよな。


顔の絵?……かな? 目がギザギザに光ってる、正面向きの顔に見える。何なんだろ。

さあ、ワイルドなコンセプトの店なんじゃね?

むはっ、この焼き鳥うめえなあ~。ホクホクしてて無限にビールが飲めるぜ。

ネギがちゃんと焦がしてあるのがまた、いいね。ネギ好きなんだよネギ。焦げが丸っきり付いてなかったら、ちょっとテンション下がるじゃん? うまいネギだなあ。
確かにうまいな。普段あんまビール飲まないけど、おれも一杯頼もうかな。

すみませーん、ビール下さい。
そして日は暮れ……。
うい~。すいあせーん、ビールもいっぱーい。
飲み過ぎだぞお前。ドニエさんが戻ってきたらいったん出るぞ。
えー? もーちょっとくらい良いじゃんかよぉ!
…………。
なんだぁー?

おい、店長のおっさんよぉ。見慣れねえ奴がいるじゃねぇか?
……揉め事はよしてくれ。通りすがりの客だ、もう出て行くだろう。
おう、遠慮すんな。俺らが追い出してやるよぉ。

ここは俺らの姉御、ジャンヌダルクさんのシマだ。よそ者に大きな面はさせねぇ。
待て、待ってくれ。今、俺から声を掛けて出て行ってもらうから。ウチでトラブルは勘弁してくれ。
なーに、ちょいと脅かしてやるだけよぉ。

いいだろ、ジャンヌさん?
……ほどほどにな。
おーい、ビールまだかぁ~~~?
おいガキ、威勢がいいなぁ。そっちのおっさんの娘か?
なんだぁてめー。あたしは娘じゃ……むぐぐ。
さ、騒がしくして申し訳ない。こいつに代わって謝るよ。
なにすんだピカール、こんなゴロツキに遠慮する必要は……もがが。
躾がなってねぇなあー。そんじゃあ、おっさんの責任だよな?

へへ、そんなに飲みたきゃあよぉ。ジャンヌさんの小便でも飲んでな!
ピシャッ!
ぶぇ……。
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登場人物紹介

マチュラン・ピカール

種族:人間
魔女と人間が争うファンタジー世界で、拷問官としてブラック労働に従事している男。転職したいがそのアテはなく、毎日ルーチンワークで魔女を拷問している。

ルイズ

種族:魔女
強大なる魔女王の60番目の娘。2さい。権力が大好きで、次代の王妃となって世の中をほしいままにすることが夢。そのために婿を必要としている。

シニストラリ

種族:人間

ピカールの同僚の性魔学者。研究以外のことを一切気にしない変人。魔女の結婚式を自らの目で調査することが目標。

アニー・ボゲ

種族:人間
潔癖症の裁判官。みだらなコンテンツを徹底的に嫌い、あらゆる権限を行使して風紀の引き締めをはかる。しかし本人はやや露出狂ぎみ。

ジャンヌダルク

種族:人間
盗賊団の首領。部下にはベタベタに甘いが、収奪をはたらく相手に対しては残虐で血も涙もないハードヤンキー。部下からの人気は高い。

ドニエ

種族:ゴーレム
ルイズの乳母。魔法によって作られた魂なき土人形で、AIに従って冷徹かつ無感情に行動する。……はずである。

マシュー・ホプキンス

種族:人間

「魔女狩り部隊」随一の戦士にしてボゲ判事の部下。常にドクロの戦化粧を施している恐るべき男。

ミセリコルデ

種族:魔女

とくに王族とかではない魔女。亀甲縛り姿で荷馬車に囚われているところをルイズたちに見つかるが……。

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