ウェイストランドのジャンヌダルク

文字数 1,901文字

戦闘ターゲット、一名のみ。予測体重60kg。危険度の測定を開始します。
おう、かかってこい!

子分ども、くれぐれも手を出すんじゃねえぞ。これは気持ちの戦いだ!
ウオーッ!
たまやー!!
やっちまえー!
…………。
覚悟! イヤーッ!
バシッ!
応!

いいジャブだ!
オラッ!!
ブゥンッ
おっと、危ない。

……反応速度、予測通り。右腕でのパンチ攻撃を確認。打撃力は3馬力程度。馬鹿力に分類されるが、脅威というほどではない。

こちらの打撃力を上げて再測定します。
イヤーッ!
むぅ!
ガッ!

……左腕での防御を確認。鎧の厚さは10mm程度。分厚いが、衝撃が貫通できない厚みではない。


格闘術は素人に毛が生えた程度。よって、危険度は中程度と判断します。

とおりゃーっ!
ブゥンッ
ちっ、また外したか。命拾いしたな!
……相手のフットワークが筋肉量に対して鈍い。鎧の重量のため動きづらいものと推測される。恐らく、私の移動速度には対応できない。

よって、一気に間合いを詰めて腹部に一発叩き込み、顎に拳撃を加えて気絶させるのが最善と判断する。
何をブツブツ言ってやがんだ! 喰らえぃっ!
今だ! ボディーがガラ空きだっ……
ヨサコイ。
何っ!?
っらぁ!!
ガゴッ!!
うぐぅっ!
ドニエ! どうした!?
へへっ、よく防いだな。やるじゃねえか!
……私が踏み込もうとした瞬間、足を引っかけられてバランスを崩した。恐らく、周囲を囲んでいる子分どものうち誰かが足を出したものと推測される。
愚かな。その程度の妨害、輪から離れて中央に寄れば届くことはな……
ヨイショ!
ヤフーッ!!
ドンッ
な、な……!? なぜ届くっ……
だらっしゃあ!!
ガゴッ!!
ぐあっ!!
へへ、当たりぃ。
ラクテン!!
これがあたいらの絆の力、ブランコ式ドロップキック!

両肩を支えられた状態だから、両足を思いっきり投げ出してキックすることが出来る!
その飛距離、未知数! しかもその間、包囲は少しも乱れねえ!
おい、ルール違反だぞ! 子分に手出しはさせないって誓ったばかりじゃねえか!
言いがかりは止してもらおう! こいつらは手出しは一切していない!
出しているのは足だ。

その証拠に、肩をしっかり組んだままだろう?
マジで言ってんのか?
このジャンヌ常にマジ、常に真剣勝負!

うぉらあ!!
くっ!
て、てめぇら~~~。きたねぇぞ!!
……姫様、心配には及びません。

危険度の判断を中の上に修正。それに伴い、こちらの出力を7馬力にアップします。
イイイヤァーッ!!
ガキン!
っつぅ……!?
ピシッ
……こいつぁ驚いた。素手で、鉄の鎧にヒビを入れるとは。
……力は使いよう。単に出力を上げただけではなく、戦闘方法を対人間モードから切り替えました。

狼の速度と小柄なグリズリーの打撃に対応する、対猛獣モードです。やや手加減がしにくくなりますが……。
姫様は慈悲深い方です。いま降参すれば、あばら骨の何本か程度でお許しになると思いますよ。
…………。
わっはっは!

面白いな、お前! それじゃあ、こっちも奥の手を出させてもらうかな。
ズラッ
…………?
へへ、まあ見てくれ。これがあたしの普段の得物「鉄柱剣」だ。
剣? 私の認識では、その鉄板を刀剣に分類することはできません。

……刃が付いていないではないですか。バーベキュー用ですか?
すげぇだろお。刃渡り4メートル、厚さ5センチの大剣だ。

刃はいらねぇんだよ。言ってる意味、分かるか? 想像できるかぁ?
その鉄板で打撲を加えようというのですか?

しかし、それに足る速度で振り回せるとは思えませんが。あなたの腕の筋肉量からすれば、その重量を自由に操ることはできません。
わっはっは。そこが、絆の力だよ!

何のために、動きが鈍るほど重い鎧を付けてると思う?
あたしはこの剣を「操る」ことなんてしねぇ。腕で「振る」こともしねぇ。あたしはただ、遠心力に任せてぶん回すだけさ!
この剣は、あたしの腕に固定できるようになっている。そしてあたしの鎧は、この剣とちょうど釣り合う重量に作られている。

全身を使うから、腕の筋肉だけに頼る必要はねぇ。鎧が勝手に重心を取ってくれるから、操る必要もねぇ。力の限りぶちかますだけだ。
それは確かに、当たればただでは済まないかもしれませんが。

当たるとでも?
くっくっく……。

ここがどこだか忘れているようだな! この包囲の内側は!
「フレンズの輪」の直径は、剣でなぎ倒される範囲のギリギリ丁度になっているのだ!!
む……!
つまり、リングの中にいる限り剣を避けることは不可能。あたしらはまるで人間巨大ミキサーだ!

そして信頼と絆の力だけが、このチームプレイを可能とするのだ!
ウィーアー!
フンバフンバ! グーグル!
ドストエフスキー!
……………………。
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登場人物紹介

マチュラン・ピカール

種族:人間
魔女と人間が争うファンタジー世界で、拷問官としてブラック労働に従事している男。転職したいがそのアテはなく、毎日ルーチンワークで魔女を拷問している。

ルイズ

種族:魔女
強大なる魔女王の60番目の娘。2さい。権力が大好きで、次代の王妃となって世の中をほしいままにすることが夢。そのために婿を必要としている。

シニストラリ

種族:人間

ピカールの同僚の性魔学者。研究以外のことを一切気にしない変人。魔女の結婚式を自らの目で調査することが目標。

アニー・ボゲ

種族:人間
潔癖症の裁判官。みだらなコンテンツを徹底的に嫌い、あらゆる権限を行使して風紀の引き締めをはかる。しかし本人はやや露出狂ぎみ。

ジャンヌダルク

種族:人間
盗賊団の首領。部下にはベタベタに甘いが、収奪をはたらく相手に対しては残虐で血も涙もないハードヤンキー。部下からの人気は高い。

ドニエ

種族:ゴーレム
ルイズの乳母。魔法によって作られた魂なき土人形で、AIに従って冷徹かつ無感情に行動する。……はずである。

マシュー・ホプキンス

種族:人間

「魔女狩り部隊」随一の戦士にしてボゲ判事の部下。常にドクロの戦化粧を施している恐るべき男。

ミセリコルデ

種族:魔女

とくに王族とかではない魔女。亀甲縛り姿で荷馬車に囚われているところをルイズたちに見つかるが……。

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