シニストラリの女ひとり旅〜温泉編〜
文字数 1,922文字
「雄牛の皮」像、見に来たんですけどぉ。今、別の部屋に置いてあるとかですか?
(うっすげぇペインティング。顔がドクロの模様だよ……。
ほんと、変なところに凝る資料館だなぁ)
ごめんなさい、展示室の担当職員は私です。ちょっとトイレに行ってまして。
何かお困りでしょうか?
(そ、そ~だよね。ドクロ顔の職員おらんわな)
あの、「雄牛の皮」像が見たくて来たんですが……。
あー、申し訳ありません。
確かに「雄牛の皮」像は当資料館の収蔵品ですが、ちょうど今日から他所に貸し出すことになっておりまして。
近々、帝都に新しい研究施設ができるらしくて。そっちに移してしばらく分析することになっています。
あ、その前に一旦、ドムレミ地方で保管するようですが。施設が準備できるまでの間、予備調査を行うとかで。
いえ、今日出荷する予定で、まだ裏方に置いてあります。
ナニッ!!
……そ、それじゃあ一目でいいので見せてもらえませんか。梱包の準備とかで、少しでも時間がある感じだったら。
……と申し上げるところなんですが、実はこれから法院の方が「雄牛の皮」像を確認しに来られます。その方が、新しくできる研究施設を統括されるとかで。
この方と一緒にでよければ、見ていただいても構いませんよ。
展示室外では職員の立ち合いが必要なんですが、その許可は既に降りてますので。同時にでしたら、何人に見ていただいても同じことです。
あ、申請書は出していただきますよ。事務室がありますので、そこで必要事項を書いてください。こっちです。
いやー、助かりますわ~。これを目当てにここまでやって来たので……。
ですです。でも、新しい研究施設ができるって話は初耳ですけど……。
あー、どうも急遽決まったらしいですね。その、法院の方が。アニー・ボゲ判事が推進されたとかで。
御免あそばせ!
出迎えの方はいらっしゃらないのかしら?
噂をすれば、って、えっ??
ど、どうされました? なぜ隠れるんです?
あなたがここの職員?
中央高等法院判事、アニー・ボゲですわ。こちらは戦乱局の総務担当者と、その配下マシュー・ホプキンス。
あ、よろしくお願いします。ご申請いただいた件ですね、私が案内させていただきます。
っと、いま、研究者の方がおられたんですが……。なんか逃げてしまいました。
?
よく分かりませんが、どうでもいいですわ。早速、像を見せていただけますこと。
(はっきり覚えられてはないと思うけど……。オフィス崩落現場で会ってるから、顔を合わせるのはまずい)
シニストラリはいったん引き上げることにし、宿泊施設へ向かうのだった。
ごろごろー。
あーこりゃ気持ちいいわ……。なんかワラみたいな匂いするし、部屋中がベッドみたいなもんなのね。エスニック~。
ハコーネの古民家を再現した客室、タタミ体験のできる温泉旅館「古里古里(こりこり)」たびログ評価☆4.5。
やっぱ、ハコーネに来たらタタミで寝ないとね!
とりあえず温泉に入ろうかな。夕食はその後でいいだろ。
あーっお客様、困ります! ここで脱がれますと! お客様! 脱衣所は向こうでございます! あーっ!
頭に雨粒がぽつぽつ当たるのもまた、いい。雨音は湯気に染み入るかのよう。静かだ……。
……ピカールはこういうのやってないだろうな、貧乏旅行だからなぁ。
かわいそ。絵ハガキでも送って羨ませてやるかな。
日程とコースから考えると……。多分、まだドムレミまで着いてないだろ。ドムレミに送っておけばいいな。
ドムレミ……。
あ、「雄牛の皮」像もドムレミを通るって言ってたな?
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