(3)

文字数 1,078文字

 有希ちゃんに電話に替わる様にお願いしたのだけど、有希ちゃんから伝えられたのはツレない返事だった。
「伯母さん、別に晶お姉ちゃんと話すこと無いって。『気を付けて帰りなさいってことだけ伝えて』って言ってた」
 はぁ? 何なんだ? 最近の伯母さんって奴は……。園児の姪が遅くなるってんだから、少しは心配しろよな!
 ま、この子じゃ心配いらないか……、私なんかより、ずっとしっかりしているもんな……。

 ここはレストランって訳じゃないから、豪華なコース料理が出てくるって訳じゃない。それでも簡単な軽食は容易されていて、私と有希ちゃんは漁師風パスタって魚介類の入ったスパゲッティと、ジェノバ風パスタって緑のスパゲッティをシェアし、ミックスサンドとシーザーサラダを二人で食べた。
 食事の間中、有希ちゃんは博学な所と健啖家であることを充分に披露し、緑の方を食べながら、自分の知っている店では松の実なんだけど、松の実だけじゃなく他のナッツも使われているとか、グラナパダーノとパルミジャーノの味の区別がなかなかつかないとか言っていた。
 私にゃ、それがそもそも何なのかの区別もつきやしない。
 最後に私はコーヒーを頂いたのだが、流石の有希ちゃんも、この上にパフェやケーキは入らないらしく、残念そうにミルクティーを飲んで閉めることにしたようだった。
 そして、食事を充分に堪能すると、有希ちゃんは当然の様にコーヒー回数券の分と合わせて、レジで食事代の会計を済ました。勿論、店員さんに財布のお礼を言う事も忘れない。
 当り前だが、今度は財布を自分のポーチに納め、私に預かれとは言わなかった。私も預かるなんて、差し出がましいことは間違っても言えないので、有希ちゃんが財布をポーチにちゃんと収めたことと、チャックをしっかり閉めたことだけは、目で確かめて、何も言わずに後ろに控えているしかなかった。

 店を出ると、外はもうすっかり暗くなり、私が帰るにしても充分遅い時刻になってしまっていた。
「こりゃ、親父やお袋にどやされるな」
 私はそう思ったが、有希ちゃんを送らずに(うち)に帰る訳にはいかない。色々あったが、美味しいものも食べられたし、結構、今日は充実した一日になったのではないだろうか?
 それもあと少し。有希ちゃんを伯母さんの家にまで送り届け、借りたお金のことを謝った上で、改めて返すことを約束すれば、今日の(わざ)を為し終えたことになる。

 だが、今日はまだまだ何かありそうだ。
 向こうの道を走って行った女子高生、あれは例の……、確か、あいつ、横山沙耶だ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み