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文字数 886文字

 私は有希ちゃんからカードを借りて、パフェを食べた喫茶店に電話を入れてみた。すると、有難いことにレジの前で落としていたらしく、店員さんが有希ちゃんの財布を拾っていてくれたのだ。
 私は本気で神様に感謝したくなった。自分でも分かるのだが、少し涙目になっている。

 私たちは、急ぎ切符を買って、電車を待つためホームに登った。電車は暫くはやって来ないようである。私たち……、特に私は精神的に疲れ、立っているのが辛くなり、ホームのベンチに並んで腰かけていた。有希ちゃんはブランコに座った様に、両足を前後にぶらぶらしている。
「有希ちゃん、ご免ね。有希ちゃんが『落としちゃいけないからって』私に預けたのに、私の方が落としちゃって……」
 もう、情けないやら、恥ずかしいやらで、大人の面目丸潰れだ。
「そんなこともあるよ……」
 幼児に慰められちゃ、本当に世話は無い。
「で、これからどうするの?」
「え? 例の喫茶店に寄ってから、有希ちゃん送って帰るんだよ。どうして?」
「そっか! じゃ今度は何か食べようよ!」
 おい、これ以上、大人に恥をかかすな! お金が無くて、お礼にご馳走も出来ないんだ! 自分でも結構めげてるんだぞ!
 
 暫くして電車がやって来た。私たちは電車に乗り、例の喫茶店に急いだ。
 喫茶店では、ウェイターさんが私たちの顔を覚えていてくれたらしく、特に本人の確認も無しに財布を返してくれた。有希ちゃんに財布の中の金額を確認して貰ったが、そのまま金額も合致し、有希ちゃんも笑顔で店員さんにお礼を言っている。
 私は自分の生徒手帳を見せて、名前と住所を示し、「今は持ち合わせがないが、一割のお礼は必ずする」と言ったのだが、喫茶店では「そんなことして貰っては困る」と言って、了解して貰えなかった。

 そんな遣り取りが少し続き、脇の有希ちゃんも退屈してきたようで、私と店員さんとの会話に割り込んできた。
「ねえ、だったらお客さんになるなんて、どう? 何か食べてくよ。それと、あたしとお姉ちゃんの分、2冊、コーヒー回数券が欲しいな」
 お、おい。勝手に話を進めるな! 
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