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文字数 1,096文字

 この子は何でそんなことを……。
 でも、私が顔を上げて有希ちゃんを見た時には、有希ちゃんは、フルーツパフェの底の方にある、コーンフレークとの格闘に集中していた。どうしても最後のフレークが掬い出せないらしい。
「有希ちゃん、良かったら、チョコパフェの方も食べてみる? こっちも美味しいよ」
「いいの? わぁ、ありがとう!」
 私は、食べかけのチョコパフェを、有希ちゃんの前に押し出して、有希ちゃんのフルーツパフェを引き取った。
 こんなこと言うと、色んな人に馬鹿にされたり、「子供を育てる苦労が、どんなものか、知らない癖に……」なんて言われたりするんだけど、私、ちょっと今、お母さんになった様な、少し嬉しい気持ちになれた。

 有希ちゃんって、本当、不思議な子。
 さっきのドラッグハウスで見せた、あの大人顔負けの態度。そして今、無邪気に二つ目のパフェを嬉しそうに食べている幼気な姿。本当に同一人物なのだろうか?
 頭で考えると、無邪気な姿は演技でも出来る。だから、大人顔前の度胸、知識、そして

としか言い様のない演技力。これが本物の有希ちゃんと言うことになる。でも、この子は恐らく、まだ園児。そんな歳にしか見えない。この歳で、この演技力を持っているとしたら、最早化け物だ。
「有希ちゃん、どうして私が、犯人探しをしようとしてるって分かったの?」
 私はカマを掛けて見た。さっきのが空耳なら、この質問に有希ちゃんは答えられない筈だ。
「そんなの、見え見えだよ。でも、そんなことしても、晶お姉ちゃんは何も得しない。そればかりか、危険な目に遭うかも知れないんだよ。だから、有希、我儘言って、お姉ちゃんを喫茶店に誘ったの。だって私、晶お姉ちゃんが好きなんだもん」
 有希ちゃんは、黙々と、いや、そうではない。食べることに集中している様に見せて、私の質問に淡々と答えている。この子を、見た目で判断するのは危険だ。
「でもね、有希ちゃん、あの店員さんは、正直言って、私、気に入らないけど、それでも、あのお店は泥棒に入られているんだよ。潰れちゃうかも知れないんだよ。このまま放っておけないじゃない」
「そんなの放っておいて、有希を伯母さん()まで、送って行ってくれない? 時間を無駄にするなら、こっちの方がよっぽどいいと思うよ」
「そうはいかない! これは私の性分なんだ。悪事を目にしたら、放っておける訳ないだろう!」
 私は少し興奮して声を荒らげた。
「仕方ないなぁ。じゃ条件。これから例のお姉ちゃんの所に、有希も連れてって。危険じゃないって言うんなら平気でしょう? 晶お姉ちゃん?」
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