(2)

文字数 846文字

「二人とも、もう止めて! これ以上やったら殺しちゃうよ!」
 有希ちゃんの声が響いた。私はその場で手が止まる。目の前の男は、化け物にでもあったかの様に、ジタバタしながら立ち上がり、そのままナイフを置いて一目散に逃げていった。
 おい、それ少し失礼だぞ!

 恐らく向う側の路地も、同じような状況だろう。いや、あっちの方が、ヤバそうな気がする。あの人影、倒れた二人の相手を、手加減なしに、無茶苦茶蹴りまくってボコってやがった。

 人影の奴がこっちにやって来る。
 でも……、だが……、お、お前、現れちゃ駄目じゃん!
「修一兄ちゃん、何やってんのぉ、もう、キレると見境いなくなるんだから……」
 そう、こっちに来るのは、私の6年後の恋人……になるかも知れない男、藤沢修一。私は数ヵ月前、こいつに見事に振られていたのだ。
 でも、有希ちゃんが「お兄ちゃん」って呼ぶって……、まさか……。
「は、はじめまして……、ぼ、ぼく、この子の従兄です……」
 何言ってやがんだ! でも……。
「はじめまして、た、助けてくれて、あ、ありがとう……」
 私もそう応えるしかない。

 でも、修一が有希ちゃんの従兄ってことは……、有希ちゃんを私に預けた、とんでもない伯母さんってのは……、耀子さん?

 修一は有希ちゃんと話し始める。
「勝手に行っちゃ、駄目だろ? 若作りババアが心配するじゃないか?」
「耀子伯母さんなら、『晶ちゃんと一緒なら大丈夫ね』って言ってたよ。それより、何で、有希たちに気付いてたのに出て来ないの? 修一兄ちゃんがいれば、晶お姉ちゃんも殴られずに済んだのに……」
 修一がこっちを向いて「ご免」って言った。
「ゆ、有希ちゃん、それは、大人の事情ってもんがあるんだよ! ここで助けて貰っただけでも、感謝しなきゃ駄目だろう? 私は嬉しかったぞ、本当に……」
 私は(恐らく)真っ赤になって、パニックになりながら、有希ちゃんに説明した。でも、本当に有希ちゃんに説明したのか、自分でも自信がない。
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