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文字数 1,124文字

「私だって、好きでやってんじゃない!」
 立ち去ろうとする私の背中に、あいつが声を掛けてきた。どうせ横座りかなんかして、目に涙でも溜めて、ドラマの悲劇のヒロインみたいに訴えているに決まっている。馬鹿馬鹿しくて、振り返る気にもなれないぜ。
「だったら、()めろよ! その前に謝りに行けよ! 警察でもいい! あいつらに脅されてるなんて言ったって、やってたのはお前だろう?」
 沙耶とか云う女は何も言わない。都合が悪くなると黙るんだ。ま、そんなもんだ。
「私は、最初は本当に、万引き何かしてなかった……。それなのに、遣ってないって言うのに、黙っててやるからって……。私、帰してくれるって言うから、謝っただけなのに……。次の日、あいつら4人組が……」
 私は有希ちゃんの手を取った。もういい。私は有希ちゃんを送って帰る。これ以上付き合ってられねぇ。

 私が路地を出ようとした時だった。路地の出口に、連中の内の一人が、何か物騒な物を両手で持って通せんぼをしている。だが、手も足もガタガタと震えている様で、今にもお漏らしをしそうな雰囲気だ。
「て、手前! この事、黙っていねえとぶっ殺すぞ!」
 成程、そう言うことか……。
 反対側の出口には、残りの二人の姿がある。やはり物騒な物を手に、私たちが逃げられない様に挟み討ちにしているらしい。
 さて、こんな連中、一人ずつなら大したことは無いが、有希ちゃんやこの女子高生を人質に取られない様にして、三人同時に退治できるかな? それに奴ら刃渡りは短いけど、ナイフの様な物を構えている。
 その時だった。向う側の男二人が、新たに現れた人影に殴り倒されている。全部見ていた訳じゃないが、ありゃ、強さが違いすぎる。相手が二人がかりで、刃物を持っていたとしても、人影の勝ちだ。

「晶お姉ちゃん、危ない!」
 正面の男が、ナイフを突き出して突進して来ていた。有希ちゃんの声が無けりゃ、本当に危ない所だった。
 私は少し腰を落とし、右の横蹴りを男の鳩尾にカウンターでぶち込んだ。もう、正当防衛だろう? ナイフを持って突っ込んでくるなんて、殺人未遂だ!
 私は素早く相手の両手を抑えると、その手をナイフごと路地の壁に叩きつけた。一回では駄目だったので、二回、三回と、私はその攻撃を続ける。そして相手の武器を遂に弾き落とした。
 さぁ、どうしてくれようか?
 そう言えば、さっき、二発も顔面に貰っていたよな……。
 私はとりあえず、相手の顔面にパンチをぶち込んだ。相手はその弾みで、足が縺れて転がり倒れた。
 悪いな、か弱い女の子のパンチで。さっきのお返しには、物足りないだろうが、勘弁しろよ。でも、まだもう一発残ってるぜ。
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