(3)

文字数 935文字

 ドラッグストアを出ると、もう既に陽がだいぶ傾いていた。ま、それでも試験期間中で下校が早かった分、夕暮れまでには、まだ時間が充分にある。

 私には、やらねばならないことがある。勿論、試験勉強ではない。どうせ、そんな物しても、悪い頭に入っていく訳が無いんだ。やるべきこと、それをするなら今から電車に乗らなくては。私は駅に向かおうとした。
 あの女、名前も知らないし、話したことも無いが、三校合同運動会で見たことがあるんだ。確か隣の地区の中学校の奴だ。同学年の筈だから、その中学出身の奴に連絡すれば、アルバムか何かに載っている筈だし、そうなれば、名前や住所だって分かる筈だ。
 あいつを見つけて、きっちりと、あのドラッグストアに謝りに行かせてやる。そうして、あのアルバイト野郎の鼻を明かしてやるんだ! 

 私が歩道に目を遣ると、さっき私を弁護してくれた、小さな弁護士さんが待っていてくれていた。
「良かった!」
 私はあの女の子に、ちゃんとお礼を言っていないのだ。私は女の子の傍に走って、さっきのお礼を言うことが出来た。
「さっきはありがとう。お蔭で助かったよ」
 女の子は特に照れている訳でも無く、当たり前の様に礼を受けていた。うん、この子、只者じゃない!
「お姉ちゃん、感謝してるんなら、頭下げなくていいからさ、二つお願い聞いてくれない?」
「ええっ?」
「一つ目はフルーツパフェを奢って! 私、こっちに来たら絶対食べて見たかったの! 二つ目はあたしをXXにある伯母さん()まで送ってって! 私、実は迷子なの」
 何てこと……。私は忙しいんだ! でも、親切にされて、礼もしない何て、完全に人の道から外れている。それにフルーツパフェはともかく、迷子の幼児が送ってくれってとお願いしているのに、無視して立ち去るなんて、そんなこと出来る訳がない!
 だ、だけど……、情けないことに金が無い! フルーツパフェ奢るどころか、女の子を送る交通費も心許ない。
「ね、ねえ、もんじゃ何て、どうかな? 美味しいよ」
 もんじゃだったら、ツケにして貰える……。
「もんじゃ嫌いなの。だって、ゲ◇みたいなんだもん!」
 いや、お前、それは禁句だ! 幼児でも言っちゃいけない台詞がある!
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