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文字数 1,006文字

 コーヒー回数券を買うと云う案は、店員さんたちには受けが良かった。確かに、この後常連になってくれる可能性も出てくるし、お礼を現金で受け取ったら、店員の誰がお金を受け取るか、それを決めるのが面倒だ。
 そう云う意味でも、コーヒー回数券などでお金を使ってくれた方が、遥かにお互いにメリットがある。
 だ、だが……、私は今、持ち合わせがないんだ!
「晶お姉ちゃん、今度はあっちのテーブルに座ろうよ!」
 有希ちゃんは、嬉しくてしようが無いと云った表情で、私を席に引っ張って行こうとする。
「ゆ、有希ちゃん、恥ずかしいんだけど……、今、本当に持ち合わせがないんだ……」
 私は正直にそれを言った。だが、有希ちゃんは全然気にしていない様だ。
「だって、お財布拾って貰って、黙って『さようなら』って言えないでしょう? ここは有希が払うよ。だから安心して」
 安心できる訳ないだろう!
 園児にパフェ奢って貰って、その時預かった財布を落として、拾ってくれた人へのお礼まで園児に払って貰うなんて……、情けなさ過ぎる……。
「絶対、今度返すから。絶対、返すからな!」
「うん、分かった。今度会った時、何か奢って。絶対よ」
 もう、ここは有希ちゃんに奢って貰うしかない。有希ちゃんを送って行って、伯母さんの住所を確かめたら、後で必ず伯母さんにお礼を渡すんだ! 借金してでも、これは返さなくちゃいけない! 有希ちゃんが言う様に、絶対だ!
 だけど、有希ちゃんに「絶対よ」って言って貰って少し気が楽になれた。ここで、「お礼なんていいよ」なんて言われた日にゃ、もう完全に立ち直れない。
 って、何を注文しているんだ! それ、一番高い料理じゃないか!
 それに他にも頼んでいる……。私の分まで……。

 有希ちゃんは私の表情から、私の心の中を読んだ様だった。
「だって、ここはお礼の替わりにお客さんになったんだよ。一番安いコーヒーだけ飲んでお終いって訳にいかないよ。だから、晶お姉ちゃんも有希と一緒に食べてね。あたし、お姉ちゃんとお食事できて、とっても嬉しいわ!」
 有希ちゃんはそう言うと、私に断りを入れて、ポーチからスマホを取り出した。確かに遅くなると言う話と、夕食を済ませてくるという話は、伯母さんにしておかなきゃ駄目だよな。
 出来れば私から一言だけでも、伯母さんに有希ちゃんの帰りが遅くなったお詫びの言葉を伝えたいところだが……。
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