(3)

文字数 859文字

 このまま、相手の為すがままなのか?
 しかし、そうでは無かった。
「痛て!」
 有希ちゃんが、首を抱えていた相手の左腕に噛みついたらしい。男は右手で噛まれたらしい所を押さえている。
 有希ちゃんは、そのまま路地を飛び出して大通りの方へと逃げて行った。そうだ、それでいい。これでやっと私も反撃が出来る。
 だが、二人はもう攻撃して来なかった。有希ちゃんに通報されると思ったのだろう。有希ちゃんたちを追いかける様に、二人も大通りの方へと逃げて行ってしまった。結果、ここには私と例の女子高生だけが残されたのだ。
 私はそれを見届けると、口から流れる血を右手で拭った。

「おい、お前、何であんなことしてるんだ?」
 私は、路地に座ったまま俯いている例の女子高生に声を掛けた。だが、こいつは何も返事をしないばかりか、こっちに顔を向けもしない。
 私だって、もう、こいつをドラッグストアや警察に突き出そうなんて考えてはいない。ただ、悪い事をしているんだってことを教えてやりたいだけなんだ。その後どうするかは、こいつが決めることだ。
「別に、私はあんたのことをチクったりしないさ。でもな、あんたにしていることで、困っている人もいるだぞって、ただ、それだけは言っておきたいんだ」
 こいつの肩は震えてる。でも、何も言わない。

 ほんの少しの時間の(のち)、路地に戻ってきた人影がある。有希ちゃんだ。どうやって逃げ切ったかは知らないが、私は、有希ちゃんなら絶対逃げ切れると信じていた。
「有希ちゃん、良かった。大丈夫だった?」
「うん。晶お姉ちゃんの方こそ、大丈夫? ご免、有希がドジったばかりに、お姉ちゃん殴られちゃったね」
 有希ちゃんは私の方にゆっくりと近づいて来る。
「なあに、サービスみたいなもんさ、私ばっかりが投げ飛ばしてたら、あいつら可哀想だろう?」
 私は有希ちゃんにそう言ってから、もう立ち去る心算で、横山沙耶って奴に一言声を掛けた。
「じゃあな。私はこの子を送って行かなきゃならないんだ」
「ま、待ってよ!」
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