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文字数 1,042文字

 有希ちゃんに、言い合いでは、もう勝てない気がする。
「危ない」と言えば、私が手を出すのも駄目だと言われるし、「危なくない」と言えば連れて行かない理由がない。「行かない」と誤魔化して、今日は有希ちゃんを送っておいて、明日行こうなんて考えても、そんなのこの子に通用する訳がない。絶対バレるに決まってる。
 幼児だと思って、簡単に騙せるなんて思ったら大間違いだ。この子は私なんかより絶対頭がいい! 馬鹿の私じゃ太刀打ち出来そうにない。
 じゃ、有希ちゃんの言葉に従って、このまま何も見なかったことにして、あの女のことは放っておこうか? 確かに、あの店、恨みはあっても恩は無いものな。

 でも……、私は我慢できるのだろうか?
 今日、見なかったことにして、有希ちゃんを送ったとしても、明日になったら気が変わるかも知れない。そうなると、私は有希ちゃんを騙したことになる。
 私は、相手が幼児だからと言って騙していいとは思わない。私の方が頭が悪いから、騙すことが出来ないって理由もあるけど、それだけじゃない。子供だからと言って、大人は誤魔化しちゃいけないんだ。
 子供はまだ、分別が無いって理由で、大人が子供を誤魔化していいって言うんだったら、分別の無くなった年寄りだって、幾らでも騙してもいいことになる。
 それは、オレオレ詐欺だって、騙された方が悪いって云うことだろう? そんなのは間違っている。
 もし分別が無いって言うんなら、理解できるように説明すべきじゃないか? それをしないで、大人だってだけで、子供に誤魔化しを言うのは、絶対私は間違っていると思う。

「分かったよ。なら、一緒に行こう! 晶お姉ちゃん、あたし、お姉ちゃんと冒険したい。お姉ちゃん、悪事を見たら放っておけないんでしょう? もし、あたしが危なくなったら、有希のこと、ちゃんと守ってよ!」
 私が有希ちゃんの声で我に返ると、有希ちゃんはもう、チョコパフェも食べ終えて、私のことをじっと見つめている。しかし、この目付きと表情。絶対、普通の幼児じゃないよな。幼児がこんな風に、じっとしたまま、いられる訳ないもんな!
「もう、真直ぐ送って行けなんて言わないよ。それに、あたし、実はあのお姉ちゃん()、分かる様な気がするんだ。今から行こうよ!」
 驚いて、私が何も言えないでいると、有希ちゃんはポーチから財布を取り出して、この店の伝票とともに私に差し出した。
「お財布、預かっておいてね、あたし、落とすといけないから……」
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