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文字数 1,066文字

 私と女の子は、近くにあった少し可愛い系の喫茶店に入って、フルーツパフェとチョコレートパフェを注文した。正直、私は情けない気持ちでいっぱいだ。何で、こうなるんだ?

 今から十分くらい前だろうか、私はこの女の子の前で、正直進退窮まっていた。このまま礼をしない訳には行かない。だけど、先立つものが殆ど無い。
 女の子は、そんな私を見て、屈託なくこう言ったのだ。
「『奢って』って言ったけど、お金は全部、あたしが払うよ。子供一人だと、お店に入れて貰えないの。だから、お姉ちゃん、あたしに付き合って欲しいの。いいでしょ?」
「そ、そんなこと、駄目だ! そんなこと、私の方がお礼をしないと……」
 私がそう言うと、女の子はポーチの中から財布を取り出して、私にその中を見せた。中には壱萬円札が、何枚も納まっている。
「あたし、習い事の先生からお小遣い貰ったばかりなの。貰ったお金だから、あたしの物って威張れないけど。お姉ちゃんと一緒にパフェが食べたいの! その位、いいでしょう? それに電車賃だってだすよ。あした一人じゃ乗れないもん……。だから、お姉ちゃん、試験で忙しいのかも知れないけど、少しだけ付き合って。お願い!」
 私は、別の意味で進退窮まった。
 恩人のお願いを断るなど、人間として恥ずべき行いだ。でも、お願いを聞いたら、恩人に奢られてしまうことになる。
「あたしのお願いじゃ、聞いてくれないの? この世界でフルーツパフェを食べるの、あたし、とっても楽しみにしていたのに……」
 こうまで言われちゃ断る訳には行かない。私のプライド何て屁みたいなもんだ。恩人だろうが、幼児だろうが、奢られてやろうじゃないか!
 私はなぜか、そういう気になって、この子の申し出を結局受け入れてしまっていたんだ。

 私とこの女の子は、そんな訳でこの喫茶店に入って、注文の品が出てくるのを待っていた。で、私はこの女の子と向かいあい、さて何を話そうかと考えた。
 うん、そうだ、私はまだ自己紹介もしていない。
「そうだ、改めて、私は日色晶。お嬢ちゃん、お名前は何て言うの?」
「あたしは有希、新田有希って言うの」
「ゆきちゃんか、いいお名前ね。で、どこから来たの? どうしてあんなとこに一人でいたの?」
「有希、遠いところから来たの。江ノ島にある習い事の先生の家に。折角こっちに来たんだから、今日は、お兄ちゃんに連れてって貰って、千葉にある伯母さんの(うち)に挨拶に行くことになってたの。そしたら、何となくこの駅で降りたくなって、一人で降りちゃったんだ」
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