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文字数 988文字

「有希ちゃん、私、有希ちゃんのお財布預かったよね!」
「うん、預けたよ……」
「持ってないんだ! 落としたかもしれない……」
 私は頭の中が真っ白になりそうだった。
 スカートの反対側のポケットも探った。手提げの中も、鞄の中も。荷物を地面に直接置くまではしなかったが、手提げを敷物に、鞄の中の物を出して隅から隅まで探してみた。でも、有希ちゃんの財布は出て来なかった……。
 なんてことだ! 有希ちゃんが私を信用して預けてくれたのに……。私はここで裸になって服を振るってみようかすら思ってくる。
 右往左往する私を尻目に、有希ちゃんは涼しい顔をしていた。
「それだけ探しても無いんだったら、晶お姉ちゃん、持ってないんだよ」
 そ、そんなことは分かってる。分かっているが、在って欲しいんだ!
「落としたか、掏られたかだよね。途中で誰かにぶつけられたりした?」
「いや、特に混んでなかったし、掏られる様な相手もいなかった……」
「だったら、落としたんだね」
「じゃ、駅に行って落し物が届けられていないか訊きに行こう!」

 私たちは今来たのと同じコースで駅に向かった。その間中、有希ちゃんと何も会話せず、私はずっと下を向いて財布が落ちていないか探し続けていた。そして、駅の窓口で駅員さんに話をして確認して貰ったが、特に財布が届けられていると云う話は聞けなかった。
 私は有希ちゃんに会わせる顔が無い。と言っても、会わせるも何も、有希ちゃんは直ぐ脇にいる。情けなくても、今、謝らなきゃ……。
「ごめん、有希ちゃん……。絶対、弁償するから……」
「落ち着きなよ。晶お姉ちゃん電車の中とか、歩いている時、ポケットに手を突っ込んだ?」
「いや、そんなことはしてない……」
 私は手提げと鞄を持って、有希ちゃんの手を引いていた。歩く時はポケットに手を入れる筈がない。電車の中では景色を見ていたけど、ポケットに手は入れていない。ポケットに手を入れたままだと、いかにも不良みたいで嫌なんだ。
「だったら、落としていないんじゃない? そのスカートのポケットは深そうだし……。きっと、喫茶店に忘れたか、ポケットに入れ損なったんだよ」
「え?」
「訊いてみようよ! 電話で」
 で、でも、電話番号なんて分からない……。
「有希、さっき、記念にお店のカードを貰ってきたんだ。それに電話番号書いてあるよ!」
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