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文字数 1,177文字

「そ、そんな……」
 アルバイト野郎は、そうでも言いたげな表情で手提げの底を両手で持ちながら、唖然とした表情で固まっている。そこに女の子は、追撃の言葉を浴びせた。
「お姉ちゃんの鞄の中身も、全部見せてあげたら? でも、もし何も出て来なかったら、あたし、伯母さんに言って、このことネットに書いてもらうから!」
 アルバイト野郎は明らかにビビって動揺している。そりゃそうだ、昨今、ネットでそんな話が出たら、店の名前だけでなく、このアルバイト野郎の本名とか、住所、家族構成だってネットに晒されてしまう。これは結構えぐい脅しだぜ。
「い、いや、別に疑っていたって程のことではなくてね、お嬢ちゃん、一応、確認って言うか、そういう意味でだよね……」
「じゃ、これで疑いは晴れたよね? だってお兄ちゃん、お姉ちゃんが物を盗ったの見てないんでしょう? それに、すぐお姉ちゃんに事務室(ここ)に来て貰ったけど、お姉ちゃんは何も持ってなかったんだよね。だったら、疑うところ何て、もう何もないよね?」
 でも、そういえば、あのハンドソープの瓶はどこに行ったんだ? まさか、この子が手提げから抜き取ったのか? 手品の様に……。
 恐らく、アルバイト野郎も、それを疑っているのだと思う。でも、この女の子の手には何も無い。それに少女の持ち物は小さなポーチだけで、ハンドソープの瓶を納めたら、チャックから瓶の先が飛び出して見えるいる筈だ。
 アルバイト野郎は、まだ諦めきれない様で、何か物凄く不満そうだ。
「でも、お嬢ちゃん、このお姉ちゃんが、逃げたお姉ちゃんとお友達で、逃げたお姉ちゃんに商品を渡したかも知れないんだよ」
「だったら、逃げたお姉ちゃんがいたことになるよね。それを信じるんなら、そっちのお姉ちゃんが、盗んで逃げたって考える方が普通でしょう? こっちのお姉ちゃんは、そう言っているんだから……」
 これには、アルバイト野郎も返す言葉がない様だ。確かに、私は棚にしまった商品が無くなっていて、その時そこにいたのが私だけだという理由で疑われたんだ。別の人間がいたとするなら、私を疑う理由なんて、もうどこにももない。

 それにしても、最近の幼児は口が達者と言うのか、ませてるってのか、大人顔負けとしか言い様がない。アルバイト野郎なんて、これじゃ、てんで歯が立たないぜ。
「じゃ、このお姉ちゃん、帰ってもいいよね?」

 この後、アルバイト野郎は渋々頷いて、「お引き取りください」みたいなこと言って、私を解放することに同意した。この野郎に、文句の一つでもつけてやりたい所だったが、流石に私も疲れていたので、ここは黙って引き取ることにした。これ以上、長居をしたくなどなかったんだ。
 それでも、不服そうな表情を崩さず、私はこのドラッグストアから、やっと外に出ることが出来たのだ。
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