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文字数 1,176文字

「ざまあみろ!」と言う気分だった。
 教師が「静かにしないと点数を遣らんぞ!」みたいな事を言ったので、私はその日の試験の答案を白紙で出してやったのだ。
 確かにそんなこと言う教師にも苛立ちがあったが、それ以上に反抗的なこと言っておきながら、成績の事を言われるとあっさりと矛を収める根性の無いあいつらにも腹が立った。

 それでも、自分の名前だけは書いておいたので、誰の迷惑にもならないだろう。
 私の答案は機械的に零点となって、何事も無かったの様に処理されるに違いない。
 そもそも、これは私が勝手にやったことで、それほど先生に迷惑を掛けたいと思った訳ではないのだ。まぁストレス解消に、意味も無く大声でわめいてみたってところだ。
 それに、どうせ本気で答案を埋めた所で、結果は五十歩百歩、大して変わりはないだろうし……。

 私は日色晶、一応天下の女子高生だ。
 そうは言っても、誰もちやほやしてはくれないし、もう少し可愛く生まれていれば、アイドルみたいに、男の子のファンクラブでも出来たんじゃないかと思うけど、そいつは高望み! 私みたいなのは、女子高生だろうが、何だろうが高が知れている。
 女で高校生なのだから、女子高生と言っても嘘じゃないんだけど、ちょっと肩書を詐称している気がしないではない。

 さて、やっちまったモノは仕方ないのだが、これからが少し面倒だ。
 その零点の為に、馬鹿オヤジの小言を食うのがえらく鬱陶(うっとう)しい。大体、オヤジだって頭が良かった何て到底思えないのに、人の赤点答案には目くじら立てて文句を言う。それも文句ばっかり言って、どうしたら良いか教えてくれた試しがない。それが延々小一時間は続く。もうウザいとしか言いようがない!

 私はそんなこと考えながら、化粧品のサンプルでも眺めようと駅前のドラッグストアへと入っていった。別に何かが欲しい訳では無いが、真直ぐ帰って両親と顔を合わせたくなかった。確かにまだ零点の知らせは届く筈などないけど、それでもやっぱり、何か気まずいのだ。

 私は意味も無くドラッグストアの商品棚、女子高生の匂いのするボディシャンプーを手に取って眺めた。
「こんなのでも使えば、少しは女の子扱いされるかなぁ?」
 そんな、しょうも無いことを私は呟いてみる。勿論、私だって分かっている。私が女の子扱いされないのは、見た目の悪さとか臭いの問題だけではないんだ。
 向こうにいる奴みたいに、女の子らしくて可愛い仕草が出来れば良いのだ。けど、私には無理だ。私にはそういう真似は出来そうにない。こればかりは、どうしようも無いのだ。

「あ、おい! お前は何をしているんだ!」
 店の奥の方にいた向うの女子高生が、棚に会ったハンドソープの瓶を何本も自分の鞄の中にさっと放り込んでいる。私は思わず叫んでいた。
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