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文字数 1,010文字

 放課後に汰瀬のところに行こうか迷っていたのだが、中島から教科書を見せてもらうときに俺が日直であることを教えられた。二人一組での当番なので、隣の席の中島とである。放課後まで日直の仕事はあるため汰瀬のところに向かうのは難しそうだった。
 日誌は俺が書くことになった。時間割りと授業内容を書き込み、クラスの様子や出来事を記入することになっている。特筆することはないが、これを埋めないことには仕事は終わらない。
 中島は教室内を箒で掃除していた。それもすぐに終わり、俺が日誌を書き終えるのを待っている。
「まだ終わんないの?」
「終わらん。書くことないし」
「手紙は書くくせに」
「それとは別だろ」
 午前に話した内容なんかをよく覚えているもんだと感心する。中島の方が書くのに困らなそうだが、『教科書を貸すかわりに日誌を書け』と言われたものだから、そうもいかなかった。
「水泳のこと書けばよくない?」
「あー、水泳ね」
 過去のページを見る限り、水泳授業がある日は必ず水泳授業に関して書かれているのが分かる。
「なんの泳ぎのやつやった?」
「平泳ぎをやったよ。男女別だから、男子がなにやってたかは知らないけど」
「へぇ」
 俺は躊躇うことなく平泳ぎをしたことに関して書き始めた。それを見て中島は首を傾げる。
「あんた、水泳出てなくない? なんでそんな書けるの?」
「あれ、よくわかるね。俺がいないの」
「いや……まあ、授業終わりに髪濡れてなかったりするし」
 中島がなにか言い渋りながらそう答える。言われてみればそうだよなと思う。
「俺、前まで水泳のクラブ行ってたんだけど肩痛めてさ。それからあんまり体育やってないんだよね」
「走るのも駄目なの?」
「走れはするけど長距離とかは無理かも。短距離ぐらいかな。リュック背負うくらいだったら問題ないんだけどね」
「そうなんだ」
 それ以上は特に聞かれなかったが、肩を怪我したことは本当だった。あまり激しく動かすことに抵抗があるだけで問題はないのだが、誰にもそれは言わなかった。その方が俺の都合が良かった。
「日誌、こんなんで良い?」
「あ、うん。私提出してくる」
 中島は自分の荷物を持って教室を出ていった。彼女に俺が可哀想な奴に見えていたのなら、それもまた都合が良いことになりうるのかも知れない。
 教室の電気を消灯してから俺は会議室に足を運んだ。案の定、汰瀬はそこにいなかった。
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