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文字数 1,367文字

 我が校のプール掃除は、生徒が自宅から持ってきた二リットルサイズのペットボトルに入れた米のとぎ汁を水の張ったプールに投入し、時間が立った後にデッキブラシ等で磨く順序になっている。デッキブラシで清掃をするには、とぎ汁を投入して一ヶ月ほどの期間が空かなければならない為、五月下旬の今、このような事を学校全体で行うのである。
 だが俺はそんなことを忘れていた為にプールサイドに出向く必要が無い。幸いにもとぎ汁を投入するだけの作業は一限に行われるということであったから、俺は二限開始前に学校に向かった。家を出たのは八時であるが、頃合になる迄通学路の途中にある公園の遊具に座り込むなどして時間を潰した。今日が初めてではないサボりである。
 自分の席に着いたのは九時四十五分を少し過ぎた位で、授業間休憩になっていた。
「おい(ろく)、なんで一限来なかったんだよ」
 永冨(なかとみ)沙川(さかわ)を連れて言い寄ってきた。今年同じクラスになってから話すようになった、とても物好きな彼らである。
「寝坊した」
「寝坊? 昨日そんなに夜遅くまで起きてたのか?」
「別にそういう訳じゃないんだけど、なんかね」
 ただのサボりと言えば良かったなと今更ながら思う。サボりと言っても面倒なことには変わらないのかも知れないが。
「別に良いけど、次の数学の課題ってやった? 僕さ、二問目のが全然分かんなくてさぁ」
 沙川のお陰で話が逸れたのを良い事に、俺は数学の問題を解いたルーズリーフを手に取る。
「これのだよね」
「そうそう、ここの解が出せなくてさ……あ、計算ミスしてたかも」
 沙川は自身の首に手を回す。永冨は何ともない顔で俺の解答を眺めていた。どうやら解き間違ってはいないようだ。
 本鈴が鳴り、各々が着席する。暫くして数学担当の教師が入ってきた。体育も兼ねて担当している人であるからか常時運動ウェアに運動靴の身なりをしており、今日もそのような容姿だった。
「はい、じゃあね、昨日出てた問題の答え合わせからやるんで……」
 そう言って先生は四人の生徒を指名した。その中に俺はいなかったが、席を立ち上がった者に沙川がいた。黒板の方に向かうと計算式を連ね始める。先程解けていないと言った問題だった。一通り書き終わると、チョークの粉を落とすように両手を軽く擦り合わせた。
 世間では黒板を使わず、電子黒板たるものが普及しているというのに、こんなものを使っているのは田舎くらいだろうという雑感を持つ。
 実際どうなのかは全く知らない。ただ、中国の大学なんかには黒板は存在しないというのは聞いたことある。学生の出欠や授業の有無は教授が直接学生に連絡を入れるらしい。そう言っていたのは年に一度会うくらいの従兄弟である。自分の大学は授業を休講にするとき、学校の運営にわざわざ申請を出さないといけない、とも言っていた。確かに面倒だろうと感じる。
 授業中はどうでも良いことを考えがちである。この授業も、知りもしない大学事情について

を広げて終わったのだから。
  僕は筆記用具を筆箱にしまい、次の授業に備えることにした。時間割と見ると『体育』という文字が見えた。
 放課後、俺は昨日と同じ道順を辿った。
 そういえば、今日は汰瀬と帰れないんだった。
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