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文字数 588文字

 家に帰ると、夕飯の支度をしていた母に呼び止められた。俺は渋々固定電話の着信履歴を押した。
「もしもし」
「……碌さんですか」
「そうですけど。折り返し電話させていただきました」
 返答すると少し間が出来た。意地らしい、早く喋らないかと顔が見えないだけに急かしたくなる。
「俺、新嶋なんだけど」
「……あぁ、汰瀬から何か聞いたの?」
 前に話題に上がった弘樹だと合点が行った。何故電話をしてきたのかは理解できない。
「ちょっと、話したいことがあったんだっけど」
「そ。じゃあ用件をどうぞ?」
「ああ、そのさ」
 意地悪をしたなと我ながら思う。言い詰まる彼に俺は口を挟んだ。
「口頭じゃ話しづらいんだったら、別に今度会ってもいいけど」
「え、じゃあ、それがいい」
 心なしか声のキーが上がったように聞こえる。そんなに顔が見えないことが不安だろうか。
 次の土曜日に会う約束を取り決めて電話を切った。台所の方に顔を出すと、やはり母は電話相手を気にしていた。
「友達?」
「そう。いい加減携帯買ってよ。皆持ってるからさ」
「えー?」
 母はそれ以上訊いては来なかったので、あくまで落ち着いた足取りを保ちながら自室に向かった。
 テスト期間が終わったとしても変わらずに課題の提出が求められる為、きちんとこなさなければならない。
 椅子に座って一息付く。電話の相手がかつて俺を虐めていた奴だと知ったら母はどう反応したのだろうか。
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