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文字数 957文字

 帰宅して、母の作った夕飯を食べてから、いつものように部屋に籠ってテキストを広げた。
 「流れを掴む感じでやる」とか言いはしたが、果たして自分はそのようにやっていたかとなると、そうではなかった。学校で教科書とは別で配布されるテキスト問題を延々と解く。それだけだった。
 社会の問題を解く。どの科目をやっているときも、自分は無心に答えを書いている。教科書の要点を確認するだとか、分からないところは友人や先生に尋ねるだとかは一切しない。なんとなく他人であるという当然のような事実を恐ろしいものだと強く感じる。逃げるのが嫌だから、近づかないようにと動いているのかもしれない。
 社会のテスト範囲の問題を解くのも、これで五回目になった。ここまでくると、勝手に筆記出来るくらいにはなっている。頭に捩じ込むようにやるこれは、ずっと変わらない。汰瀬は効率良く勉強しているのだろう。それこそ、「流れを掴む」ようにして。
 手が止まる。どうして汰瀬なんだ?
 だが、また直ぐ手は動いた。そうだ、泳ぐときもそうだった。遥か昔のように思えるが、それでも一年前くらいの話でしかない。
 俺は汰瀬が嫌いなのかもしれない。だから汰瀬がちらついたりするんじゃないかと考える。幸せなことより苦い記憶を覚えてえいるのと同じ原理で、何かしらに結びつけようとするのは、そういうことではなかろうか。
 その上で、ここ半年間一緒なのは何故なのか。いやそれは、知り合いが彼しかいなかったからだ。
 でも俺にはもう、永冨や沙川がいる。ならば、汰瀬と居る必要はないのではなかろうか。
 社会の問題の添削を終える頃には、し始めたときからだいぶ時間が経っていた。風呂に入っていないことを思いだし、一階の脱衣所に向かう。リビングでテレビを見ていた母の声が俺を呼び止めた。
「さっき洗濯し終わっちゃったから、籠の中に着てた服入れたままでいいからね」
「んー、わかった」
 いつもは洗濯する前には風呂入ってんのに、あんた勉強熱心ねぇ、と親にまで感嘆を溢されてしまうような現状だ。全くそのつもりはないことを口には出せなかった。
 怪訝な顔をされるよりは良いであろうと思い直すことで、やっとシャワーの蛇口を捻ることが出来た。
 その日の汚れの如く、流し落とせてしまえたらなぁ。
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