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文字数 950文字

 体育の時間が終わるのを見計らうようにして教室に戻った。室内は汗と体温が薄く充満していて、賑やかさがそれらを鬱陶しくさせた。
 次の授業は何だったかと思って隣の席を見たが、人の気配が無かった。そういえばあのカーテンを隔てたところにいるんだった。クラスメイトが教室内に屯しているということは、つまり教室移動がないと思われる。掲示されている時間割に目をやると、体育の下には社会科という文字があった。俺はリュックサックの中を漁った。
「碌」
 顔を上げると、気概のない表情をした永冨がこちらを見下ろしていた。
「おー、体育お疲れ」
「なあ、本当に汰瀬ってやつと仲良いのか?」
「良いよ。何かあったの?」
 おおよそ、掃除のときにあったことが起因していることは判る。その続きを促した。
「いや、特に言いたいことは無いけど、なんであいつと仲良いんだ」
 らしくないテンションで言葉にしている彼は、俺から少し目を逸らした。
「俺の悪口でも言ってた?」
「まあ、そう」
「掃除のとき喧嘩してたよな。原因が俺のことだったら謝るよ」
「見てたのかよ」
「ちょっと騒ぎになってたじゃん」
 永冨は煮え切らない顔のまま俺の前から立ち去った。社会科の担当教師が教室に入ってきたからだ。中島の席はその時間も空席で、視線に気づいたのは六限が終わったときだった。俺はそれに応えずに教室を出た。
 会議室には今日も汰瀬が居た。
「順位何位だった?」
「五だよ」
 朝に通知された中間テストを示しているのは明確だった。汰瀬は少し気に食わないような顔をしたが、以前似た様な話をした時も同じような反応をされた覚えがある。
「今日俺の文句言ってたって聞いたんだけど」
「は?」
「喧嘩してたじゃん、だから」
「なんで知ってんの」
 不機嫌な声色を含ませた声と共に、眉間の皺が深くなる。俺は汰瀬の顔の少し上の宙を見つめる。
「友達に言われた」
「あっそ」
「そんなに辞めたのが憎い?」
「そうじゃない」
 椅子のキャスターの音を激しくたてて彼は立ち上がった。視線がぶつかる。何事も無いようにそこから逸らす。
「帰ろ」
「……おう」
 特に話をすることは無いが、並んで帰る。いつもあの言葉の先を聞くことが出来ないまま明日を迎えることを察した。
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