4-2

文字数 1,118文字

 便箋一枚に書いた内容は本当につまらないものだった。いつも誰と一緒にいるとか、共通の知人として汰瀬を出してみたりしたが、特筆することもなかった。こんなので良いのかと思ったりするが、言い出した新嶋は何でもいいとか言っていたような気もしたので、とりあえずそのまま封をした。一限終了の(れい)が鳴ったので、田城先生に挨拶をして相談室をあとにした。
 教室は思った通り熱が籠っていた。既に水泳授業による着替えを済ませたクラスメイト数人が次の授業の準備をしていたが、その中に沙川と永冨はまだいなかった。自分の座席が扉付近であったので、その数人に見られることなく席に付くことが出来た。
「あ、おはよう」
 流石に隣の席の中島には声を掛けられ、同じようにおはようと返す。俺は思い付きでその言葉尻に会話をし始めた。
「中島って手紙とか書いたりする?」
「手紙? うーん、小学生の時に少ししてたかな」
「そういうのって、どういう内容書くもん?」
「えー、大した内容ではないけど、好きな漫画の話とか?」
「ふーん」
 手紙の中身というのは重要ではないものだと思って良いのかもしれない。結局のところ相手を繋ぎ止めておくことに意味があり、手紙はその手段でしかないのだ。
「え、何? 女子と文通でもするの?」
「違う、ただのおままごとに付き合うことになっただけ」
「なにそれ。親戚の子とでもするの?」
「あー、まあ、そんな」
 新嶋には至極失礼な物言いである。本人に聞かれていなければ良いとさえ思っている俺が如何に彼の気持ちを侮蔑しているかが透いて見えてもおかしくなかった。
「へー」
中島は至極つまらなそうな声を出しながらも、目線はしっかりと俺の方に向けていた。
「今すごく疑っているだろ、俺の事」
「ううん、なにが?」
「なんでもないけど」
 なんのことかと疑問符を浮かべておきながら、ううんと否定するという矛盾していないようでしている反応からして、追求してくることはないだろう。
 俺の中では、今のご時世において女子同士での文通はしっくりくるが男子同士の文通というのは新鮮味があるような位置付けだった。それを元に考えれば中島は、俺が同級の女子相手に文通をしているんじゃないかと勘ぐっているんじゃないかと思ったのだ。
それを聞けば良いのかもしれないが、聞いたら聞いたで相手の疑惑的確信を深めるだけだと思った俺はもうそれに触れることはやめることにした。俺は教科書を取り出そうと机脇に掛けたリュックの中を身を屈めて見た。
「……悪い、教科書貸してくれない?」
中島の方を体を起こして見たとき、彼女は動揺を目に含ませたような表情をして俺の言葉に首肯した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み