セパレート 4-1

文字数 857文字

 二日後の登校日のときには、リュックにお揃いのストラップがぶらさがっていた。サッカーボールのそれは俺が、同じシリーズで水泳ゴーグルみたいなのを模したストラップを新嶋が持っている。そのストラップを選んだのも、サッカーボールのストラップを自分用にしようと提案したのも俺だった。
 今日は一限から水泳の授業であった為、俺が朝から相談室に直行するということを田城先生は予感していたのか特に何も言わずに俺を迎え入れてくれた。
「いやー、あと二週間で夏休みなんだねぇ。羨ましい」
「先生は別に部活顧問とかじゃないから暇なんじゃないの?」
「そんなことはない。これでも休暇中にやんなきゃいけないことが山ほどあるんだから」
 先生はコップに注いだ麦茶を俺に勧め、デスク上の書類を漁り始めた。俺も同じようにリュックを漁る。
「それは何しようとしてるんだ?」
「手紙書くつもりで持ってきた便箋を取り出したところです」
「へえ! 今の子も手紙なんて書くんだね! 何? 告白?」
「違いますけど」
 青色の封筒に罫線が引かれた便箋。右下に犬のイラストがワンポイントで入っているというこのチョイスは俺の趣味ではなく、新嶋のものだ。
「俺スマホ持ってないんで、手紙のやりとりしようってことになったんです」
「転校する前の友達とってことか。いいね」
「まあ、そうですね」
 便箋に向き合い書こうと試みるが、一向に筆が動かない。第一いままでに手紙を書くというイベントを経験したことがなかった。
「先生って、手紙とか書いたことあります?」
「手紙? 相談室便りならいくらでもあるけど」
「そういうことじゃないです」
「ふはは、いや、あるよ」
 先生はデスクが俺の真向かいにあるソファに座って便箋を覗き込んだ。
「交換日記みたいな感じで書けばいいんだよ、そういうのは。まあ今日はまだ一限だから昨日あったこととか書けばいいんじゃないか?」
「あー、なるほどです」
 とりあえず沙川と永冨のことを書いてみようかと思い、先生に見守られながらペンを動かした。
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