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文字数 837文字

「何? 汰瀬になんか言われた?」
「そうじゃない」
 話を逸らそうにも直ぐに戻される。別にからかうとか弄んでいるという訳でないことは、その目のぶれなさから瞭然としていた。
「ガチで言ってんの?」
「……ガチ」
 紅潮からのものでない動悸で呼吸が浅くなっている自覚があった。新嶋の方を改めて見れば唇が震えているように見える。その震えが何を示しているのかを俺自身が知る手立てはない。
「俺はお前のこと、そうは思ったことない。今も思ってない」
「……まあ、そうだよな」
「でも別に付き合ってもいいとは思ってる」
「はは……いや、冗談は寄せよ」
 口元に浮かべた笑みが崩れた。自分で言っておきながら、動揺しているのだ。ならば言わなければ良かったのに。食べかけだったハンバーガーの残りを全て口に詰め込んで咀嚼しきるのには、多少の時間を要した。
「お前は冗談じゃないんだろ?」
「……おう」
「俺にはお前のその気持ちに答える選択肢があると思って言ってんだ」
 メロンソーダを口に含みながら、新嶋の目を見た。今度は一向に目が合わないのが焦れったかった。
「らしいことまでは多分出来ないかもしれないけど」
「いや、それでもいい。いいけど、本当か?」
「これで嘘だったら性格悪すぎだろ」
 メロンソーダを飲み干し、氷を掠める空気を吸った。新嶋も丁度食べ終わったタイミングでフードコートを出た。
「次、どこ行く」
「あのさ、なんか一緒のやつ買いたい」
「ふはは、いいよ。なんか『らしく』なるな、それ」
 会ったときよりも、明かに会話が弾んでいるのが心なしか嬉しく思えた。
 暫く新嶋についていくと、スポーツ用品店に辿り着いた。
「ここで買うのか?」
「まあ……ストラップ見たいなやつ、とか」
「ストラップか」
 普段の俺だったらまず付けない代物だろう。別に嫌ではないが、汰瀬が見たときにどう思うだろうか? という思いが頭を掠める。
「だったら、これとか?」
 俺は二つのストラップを手に取った。
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