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文字数 964文字

 新嶋からの返信は、週が明けた月曜夕方には来ていたから驚いた。
 沙川達の部活終わりまで田城先生の所に居候して帰宅した時のことだ。
 母との会話もそこそこに、俺は自室へ急いだ。荷物を置いて開封した便箋を読む。
『汰瀬と知り合ったのは水泳通う前からだよ。汰瀬が元々サッカークラブ通ってたの知ってる?  それで知り合った。でもその時には水泳の方も通ってたらしくて、碌の話をすごく聞いた――』
 俺は一旦読むのを止めた。便箋が三枚重なっていることに気づき、情報を整理していく必要があった。
 ただ理由はそれだけではない。目に入った後続する単語を見て、事態が単調で無いことを悟った。
『碌の話をすごく聞いたよ。同じ学校なのに全然知らなかったから今度話してみる、みたいな事を汰瀬に言った覚えがあるけど、その時の汰瀬が物凄く怖かった。話かけんな、とか言われた。誰に? って聞いたら碌に、って。』
 汰瀬に押し倒された時のことを思い出す。次の便箋を見た。
『碌と友達になるとか言う理由じゃなかったら別に良いよ。なんなら怪我くらいさせてみろよって言ってボールを俺の右肩に蹴りつけてきた。流石に意味わからなかった。だから碌に話しかけることはなかったけど、サッカークラブの練習がなかった日の放課後に、汰瀬が学校にきていた』
 新嶋と俺が通っていた小学校は、汰瀬が通っていた小学校から大体五キロ程離れたところにあった。来れないことはない距離ではあるが、何をしに来たのか凡そ予想が出来る。
『その時からだいぶおかしいっていうのに今なら気づけるけど、当時は多分混乱していたんだと思う。殴られたお前からしたらそんなのどうだっていいだろうけど、あれは汰瀬に言われてやったんだ。別になにか弱味みたいなのがあったわけでもないのに、言うこと聞いてたのは怖かったのかもしれない。友達いなかったし。』
 俺は小学校の卒業アルバムを開いた。いたるところに新嶋の姿があり、誰かに笑いかけている。何処のページにも俺は居なかった。正直新嶋の言うことは信じられない。
『中学に進学して碌が転校した時、汰瀬が嬉しそうに話してきてた。それ以来何か強要してくる事とかなくなったし、しばらく碌の話もしなくなった。けど、怖くなって……』
 便箋の最後まで読み終えた。
 明日以降、どうしていくかを思案することにした。
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