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文字数 871文字

 蒸し暑さで蔓延する外界を遮る自動ドアをくぐれば、冷風で調整されたショッピングモールの内部が広がる。元々住んでいた所から近いこの建物は、現住所から路線バスを乗り継いで一時間半程のところにあった。
 やはり休日は人が多かった。小学生の集団やら親子連れやらがあちらこちらと歩いている。もっと人が居なさそうな場所で会うべきだったように思うが、思い当たる場所がない。分かりきっていたことではあるので、仕方ないと思いつつ待ち合わせの場所に向かう。ゲームコーナー前のベンチである。
 エスカレーターを上った所から下り口に向かって進む。下り口の前にゲームコーナーがあるのだ。新嶋らしき姿を探そうと見回すと、通路に一定間隔に設置されたベンチに一人で座り込んでいる人物がいる。隣が空いていた為、俺はそこに腰を下ろした。新嶋だと思ったからだ。横目で見た感じだと、歳も近いように見えるので可能性は十分にある。
 だが俺は新嶋の顔を全く覚えていないのだ。電話では言わなかったからどうしようもないが、相手に気付いてもらう他に方法はないだろう。スマホでさえ与えられていないのだ。それだからなるべく顔が見えやすくなるように前方を向く。アーケードゲームに行儀良く並んで順番待ちをしている男児を眺める。自分が幼少の頃は、アーケードゲームをさせてもらえなかった記憶がある。その為ゲームの仕様もいまいち分かっていない。一プレイに付き一枚カードを入手出来ることは知っている。
「え……碌、さん?」
 あ、と声が漏れたのかと思った。隣に座っていたのは新嶋だった。
「そうだけど、新嶋?」
「おう。なんだ、ずっと隣に座ってたのか」
 そう言って笑ったかと思うと、直ぐに目を逸らされた。
「じゃ、どうする」
「あー、うん」
 ノープランだったかと口の中に含んだままに相槌を打つ。
「メダルゲームしたい」
「じゃあ行くか」
 採用されるとは思わなかったが、まあいいやと投げる。メダルと手持ちの小銭とをカウンターで交換する。五十枚程のメダルを容器に携え、二人でメダルゲームを囲うことになった。
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