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文字数 783文字

「手紙の相手にでも追われてたの?」
 両親が仕事から帰らない時間だからと、中島が俺をリビングに案内して述べた一言。
「違う。汰瀬だよ」
「なんで?」
「俺の家に来てたんだよ、汰瀬が。そこから色々危なくなったから」
「あんまり関わりたくな……」
 中島が麦茶を注いだコップを差し出す。彼女が自分のコップに口をつけるのを見計らい、俺も差しだされたのを手に持った。
「きっかけは手紙の相手だったな」
「お互いに知ってる人?」
「そうだね……でも大体きっかけは汰瀬のはずなんだよな」
「へぇ~」
 三口麦茶を含む。液体の冷たさが、酸化して苦い口内を取り払ってくれる。
「そういえばさっき疾走してたけど、肩痛めてたとか嘘なの?」
 その一言で、午前の会話を思い出した。
「普通に痛いよ。汰瀬に追いつかれる方が面倒だったし……」
 肩が少し重くなったような気がしてきて、大きく腕を振ると痛くなるということを認識されられる。
「仲悪いの?」
「まぁ……仲良いつもりはなかったな」
「え? じゃあなんで?」
「それは」
 何故なのだろう。
 汰瀬に悪口を言われても尚、行動を共にすることに何故違和感を持っていなかったのだろうと今更ながら疑問が浮上してきた。
「……分かんない」
「大丈夫なの、それ」
「いや」
 大丈夫ではない。
「それ、なんかおかしいんじゃない?」
 水泳教室で虐められていたときから、俺は関心を欠落させていた自覚はあった。
「逃げるくらい良いと思ってない人と一緒に行動する必要、無いと思うんだけど」
 意識するから痛みを感じ、怒りを覚え、惨めさに沈み、可哀想だと言いくるめられ、淋しくなる。
「どうしようもない事情があるなら、それこそどうしようもないけどさ……」
 それを間近で見ていたのは汰瀬だった。
「……あいつじゃん」
「え?」
 俺を眺めて楽しんでいたのは汰瀬だったじゃないか。
 コップの中の麦茶を、音を立てて飲み干した。
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