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文字数 882文字

 投入口からレールを辿って滑るメダルが無造作に積み上げられた山に追突したかと思えば、その一部となって動かなくなった。残りは二十枚程になっている。溜息を飲み込んで、アクリル板の向こうを見つめる。
 メダルゲームを始めてから、新嶋との間に会話は一切なかった。雑音の多さがゲームセンターのアイデンティティーであるから、彼の声がそれらと融和してしまっているのかもしれない。そうであるとは微塵にも考えていないが。
 板の向こうに見える彼はずっとメダルゲームを見ている。右目の方だけはアクリル板を通さずに見える。彼は僕の左側に座ってメダルを黙々と投入していた。
 メダル落としに類分けされるゲーム機があまり得意でない俺は、新嶋が当初手にしていた枚数よりも多いメダルを手元に置いているのをみて驚いた。
 ただ話を切り出しにくいとかそういうことではなく、ただゲームに集中しているだけのようにしか見えなくなった。
 俺は残り十九枚になったメダルを、新嶋のメダルの山に振りかけた。そのぶつかる音なのか、俺の気配になのか分からないが、彼が此方を向いた時の目を見開いたような黒目の小ささには少し笑いそうになった。
「俺あんま出来ないから、あげる」
「あぁごめん……ありがとう」
 座ってそれを眺めていようと思ったが、彼は何か思ったらしく手元にあったメダル全てを粗雑に投入口に詰め込んだ。
「もう昼過ぎだし、何か食お?」
「おう」
 終始、変に敬語が混じる新嶋を可笑しくおもいながらファストフードを買ってフードコートの片隅にあるテーブルに座る。近所にチェーン店なぞ存在しない為、こうして食べるのは久しかった。毎日これだと飽くだろうが、時々にこのジャンクフードの過剰摂取は幸せであるのかもしれない。
「そういや、なんか話すことがあるんじゃなかったっけ」
 食べながら感じる視線にそう応えながら、あまり食べ進められていない新嶋のバーガーを見た。その後に新嶋の目を見る。新嶋の目はずっと俺に向いていた。
「付き合ってほしい」
 何が? と言う前に、その目が全ての意味を包容しているのが明白だった。
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