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文字数 824文字

 沙川の部屋は、掃除の行き届いた清潔感のある部屋だった。フローリングの床が羨ましいと思いつつ、部屋に踏み入れる。永冨は自室であるかの様に寛いでいる。
「沙川の家にはしょっちゅう来るの?」
「中学になってからはテスト期間くらいかな。小学生のときはわりと毎日遊んでたかもしれない」
 永冨が鞄から教材を引っ張り出している。しっかり勉強しようとしているから、彼は根は真面目なのだと思わされる。
「真面目にやってるねぇ」
 暫くして、飲食物を手にした沙川が入ってきた。ローテーブルに広げられたノートや教科書を少し退けて、それらを置いた沙川はどかりと座った。
「この長文読解、凄く面倒だな。俺寝てたから分からんことばっかだわ」
 国語の長文問題を永冨は指さした。確かに小説の文章は、作者の考えを察したりするのが難しい。
「そんなの、ノートに取ったとこ暗記しておけばいいのに」
「ノート取ってないのがまぁ悪いけどね」
 俺と沙川は白々しい態度を言葉に乗せるが、それでも板書したノートを見せる優しさはあった。ありがてぇわ、とシャープペンシルを走らせる。
「暗記とか言ったけど、僕、社会とか苦手だな。歴史とか特に」
「それは単語で覚えているからではなく?」
「え? 単語以外にどう覚えるのこれ?」
「流れを掴む感じでやるとか?」
「流れねぇ。碌は難しいことを言うね」
 俺の言葉に耳を傾けながら、沙川は棚から冊子を取り出す。『歴史』と書かれた文字が見えた。
「碌めっちゃ頭良いな」
「そんなことはないと思うけどな」
 他の人より勉強時間があるから、当たり前だ。皆と同じように部活をしていれば、誰よりも劣ってしまうに違いないとさえ思っている。
「今のうちに勉強しておかないと後悔するぞって散々言われるけど、どうしようもなくね?」
「宗は元々しなさすぎなんじゃない? 僕そんなに言われないけど」
 二人の会話に相槌を打ちつつ、自分の中にある虚しさの埋め方を考えていた。
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