第6話 モグモグ

文字数 510文字

 窓の外を眺めながら、アンちゃんが小刻みに鳴く。
「ニャッ、ウニャウニャ、ニャッ」
庭の木の枝に、鳥が来ているのだ。
「私なら、すぐに狩れるわ。ほら、早く出しなさいよ、外に」
「だめです」
彼女の、狩猟本能はすごい。
長い手足を生かして、獲物を素早く仕留めるのだ。
「仕方ないわね。あんた鈍くさいから、今度私が見本見せてあげる」
「いやいや、いいですから」

ある日、廊下にて興奮気味にアンちゃんが鳴いている。
「なに?どうしたの?」
「ほら、ほらほら、見てみなさいよ。これなんか、初歩中の初歩よ!」
彼女の口から黒い手足が、動いてるのが見えた。
「ゴ!」
わざわざ私の前で、口を開く。
ポタリと床に落ちた黒い物体が、弱々しく動いている。
「これなら、あんたでも狩れるでしょ?」
誇らしげな顔で、褒めろとでも言うかの様に。
なんとか、しなければ。えっと、新聞?殺虫剤?えっと…
ここで私の思考は停止中。
と、とにかく、なにか持ってこなくちゃ。
ほんの少しだけ、その場を離れて戻ってくると、
「あんたさ、獲物から目を離してどうすんのよ」
黒い手足が、無残にも床に散らばっていた。
ゴキは?え?本体は?
彼女は、かわいらしい小さな口を、モグモグさせている。
そう、モグモグと…。









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