第8話 選ばれし おもちゃ

文字数 578文字

 猫のおもちゃ売り場を見つけると、思わず足がとまってしまう。
じゃらしやら、ボールやら無数のおもちゃを前に「これ、喜ぶかな?」
なんて、想像しながら買うのも楽しみの一つだからだ。
しかし、食いつくのは、初日のみ。下手すりゃ、数分で飽きてしまう。
「あ、あれ?」
じゃらしの振り方が、悪かったのだろうか?いや、ボールの投げ方?角度がいけなかった?
なんて、考えるだけ無駄なこと。
「あのさー、何よそれ。ぜんっぜん、楽しくないんだけど」
アンちゃんの、ため息が聞こえてくるようだ。
こんな飽き性のアンちゃんだが、最近、素晴らしいものを発見した。
その名も「ただの紐!」
そう…「ただの紐」だ。
ギフト用の細い金色の紐で、猫心をくすぐるとは到底思えない代物だったのだが、
「これさえあれば、振り方?角度?全然問題ありません」と、
通販の番組さながら。
アンちゃんの目の前でチラつかせると、あら不思議。
猛烈ダッシュで、追いかけまくること、風の如し。
面白いほど、食らいつき、右へ左へ猛ダッシュするのだ。
これよ、これこれ。私が求めていたのは。
そしてもう、1年近くこの紐一本で、過ごしている。
「ねえ、他のおもちゃでも、遊ぼうよ」
いい加減、私が飽きてきた。
「嫌よ。いいから、その金のクネクネ、さっさと動かしなさいよ」
「はいはい、仰せのままに」
悲しき数々のおもちゃ達は、今静かに引き出しの中で眠っている。







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