33話
文字数 3,554文字
ヴォルザークと鍔迫り合いをすること暫く、痺れを切らせたらしいあちらは「ええい、いい加減にせんか!」と刀身から暴風を起こした。
「もう一度吹き飛ばしてくれる! 貴公の反撃もこれまで……」
「な訳がないだろうっ!」
暴風を解放される間際、真・準聖剣を魔剣で押さえ込みながら……ヴォルザークの胴に右翼を叩き込む!
「ぬ、うぅっ……!?」
翼がヴォルザークの体に接触した瞬間、右翼全体から噴出する魔力を爆発的に増加させる。
それによってヴォルザークが纏う風の鎧を引き裂きながら、背後の壁際まで弾き飛ばす!
「ガハッ……!?」
壁にヒビを入れてその身をめり込ませながら、ヴォルザークは口元からくぐもった声と血を滴らせる。
手応えとしては、今までにないほどにはっきりとしていた。
鋼鉄にも勝る強度の翼撃により、恐らく骨の数本はもらっただろう。
……しかし、ヴォルザークも馬鹿ではない。
即座に神樹の魔力を使い、白魔で体の再生を始めた。
「……これが貴公本来の力か。ならば……!」
ヴォルザークは壁から自身の体を引き剝がした後、握りしめた真・準聖剣に纏わせる暗緑色の魔力を増大させ、自身にもその魔力を付与した。
その身に宿る魔力が、竜種並みに強大なものとなっていくのを感じる。
ヴォルザークから発された殺気に、肌が痺れたその刹那。
──これは、来る!
「覚悟せよ、半魔の英雄!」
そう告げるヴォルザークは地を踏み砕き、瞬間移動と見紛う速度で目と鼻の先にまで迫っていた。
こちらの首元を狙って振られた神速の刃を、僕は……。
「ラァッ!」
魔剣を強引に振って、防ぎきる!
魔族化の力を使ってもなお腕が痺れる威力の一太刀に、僕の野生の勘が一撃すらモロに受けるなと告げていた。
「それならば、数を打ち込むのみ!」
だが、ヴォルザークの連撃は留まるところを知らない。
ただひたすら、嵐のような連撃を繰り出し続ける。
残像のみを辛うじて捉えられるような超速の剣戟を、僕は勘任せに体を捻って躱していく。
次に正面から振られた一閃を魔剣で受け、背後に回り込まれてからの斜め斬りを右翼で受け止める。
その須臾……真・準聖剣の魔殺兵装 が起動し、右翼を形作る結晶体の一部が崩れ出す!
「くっ……!」
結晶体が如何に超高密度魔力とは言え、魔族の力である以上は真・準聖剣のカモでしかない。
一撃たりともあの刀身を体に直接受けてはならないと、勘だけでなく身をもって再認識する。
「どうした、動きが鈍いぞ!」
「余計なお世話だ……!」
更に胴を横薙ぎにする迅斬を……魔剣で弾き上げてから左翼を軸に飛翔し、空中へ逃れる!
「……!」
ヴォルザークの腕が跳ね上がっている隙に、ポーチから予め取り出してあった杭を放つ。
魔族化して強化された筋力による投擲は最早、射出と形容した方が正しいだろう。
弩弓をも超える速度で放たれた二本の杭は、一本は咄嗟に弾かれたものの、もう一本はヴォルザークの左太ももへと深々と突き刺さった。
「うぐぅ!? 何の、これしき!!」
ヴォルザークは足から杭を引き抜きながら、こちらに魔法陣を向けた。
そのまま無詠唱で第四階梯相当の炎の槍を無数に生成し、僕を穿とうと報復をしにかかってきた!
「……っ!」
僕の背丈ほどもある槍の嵐は、一本でも炸裂すれば墜落は必至。
物量で攻め立てて来るヴォルザークに対し、こちらは飛翔しながら前後左右、縦横無尽にフェイントをかけて躱していく……!
『流石はフリーデン様、勇者一味の猛攻を捌ききっただけのことはあります……!』
「それはどうも……っ!」
ヴォルザークの周囲を数周飛び回ったところで……地面すれすれまで高度を落とし、一気にあちらへと飛来する!
「ぐっ……狙いが!?」
僕が急激に軌道を変えたことで、ヴォルザークは焦ったのかこちらの動きに対応しきれていない。
更に足のダメージもあり、もう回避に転ずることもできないだろう。
──今しかない、ここで決める!
『フリーデン様!』
「うおおおおおおおおおお!」
残る魔力の大半を両翼に送り込み、急加速をかける。
槍の雨霰が体の各所を掠めながらも、止まることなくヴォルザークへと肉薄する。
同時に魔剣に魔力を込め……すれ違いざまに真・準聖剣をヴォルザークの手から弾き飛ばす!
「なっ、我が剣 が……!」
真・準聖剣がヴォルザークの手から離れた途端、その体が、髪が、再びゆっくりと老人のものへと戻りだした。
それを確認しながら、宙に浮く真・準聖剣を左翼で遠方へと弾き飛ばす!
──これでヴォルザークは逆転の目を失った。
後は弱る一方だ!
「おのれ、おのれ、おのれェ……! 薄汚れた混ざり物如きに、この儂が! ……こうなっては致し方あるまい。残る魔力を解放し、この祭壇諸共……貴公を消し去ってくれよう!」
ヴォルザークは恨み言を吐きながら、自身の正面に魔法陣を四重に構築する。
それらはそれぞれ、炎、水、風、地の四属性によるものであると、一瞬で見て取れた。
──この魔法陣の構成……間違いない!
ヴォルザークは竜のブレス並みの魔力を解放しながら、声を張り上げた。
「気がついたか英雄! だが鈍い!! 前魔王が愛用していたと聞く第五階梯最高位の超魔法、デバステイターによって、貴公らを粉々に分解してくれるわ!」
大気が、地が、空間が。
規格外の「超魔法」の発動で震え上がる。
四属性の魔力を練り混ぜ、森羅万象全てを破壊するとも言われるその魔法は、ヴォルザークの言う通り確かに魔王様が愛用していたものだった。
──ただし、どれだけ強大な魔法も発動する前ならば……!
魔力の解放で速度を上げたまま、僕は魔法を回避するのではなく……再度ヴォルザークの眼前へと躍り出る。
「馬鹿な、一体何を!?」
僕の行動に対し、驚愕に顔を歪めるヴォルザークのその正面にて。
「ラァッ!!」
解放間際の魔法陣を、結晶体に覆われた赫々の拳をもってして……修復不可能なほどに砕き割る!
魔道具作りの時にも考えたように、魔法陣は「属性魔力の調整や出力制御に関する術式の略図」なのだ。
そして魔法陣が現れてくれるからこそ、魔法は最適な発動を行うことができる。
──それはつまり、裏を返すと……!
「……魔力で編まれた結晶体で干渉し、魔法を無効化したとでも言うのか……!?」
──魔法陣を砕いてしまえば、魔法の発動そのものを無効化することができる!
……無効化された魔法陣が、光粒子として散りゆく最中。
僕の拳から発された魔力の衝撃波によって、力を失い老いたヴォルザークの体は容易く浮き上がり……その先で倒れ伏した。
仰向けのヴォルザークは自嘲気味に、深い皺の入った顔を歪めた。
「……そうか。赫々『極砕』の英雄……か。まさか第五階梯 の魔法を、ああも容易く無効化されようとはな……」
これまで受けたダメージもあってか、ヴォルザークはもう恨み言すら吐かず、立ち上がる気配もなかった。
──終わった、のか……っ!?
「げほっ……!?」
ヴォルザークを討伐したことに安堵した途端、口元にこみ上げてきたモノがあった。
それを吐き出すと地面に毒々しい黒みのかかった赤い華が咲き、魔剣が『フリーデン様!?』と悲鳴を上げた。
『すぐに白魔で治癒を施しますので、しばしお待ちを!』
「……助かるよ」
魔剣の力で体が修復され、焼け付くような痛みが引いていく。
少々無茶をしすぎた感覚は否めないものの、それでも体はこうして繋がっているし、痛みこそするもののしっかりと動く。
またゆっくりと休めば、ちゃんと元に戻るだろう。
……でも、休む前にやることがある。
「……神樹と、真・準聖剣を……完全に破壊しないと」
今回の一件を企てたヴォルザークは倒した。
後はこれで真・準聖剣、それに神樹を破壊すれば……今回の一件は全て終わるだろう。
神樹そのものが完全に死に絶えれば、ローレライの一族であるらしいユノも、ただの女の子になる筈だ
そう思って、先刻弾き飛ばした真・準聖剣はどこに突き刺さっているのかと首を回そうとしたその瞬間。
「あーぁ。やっぱりこんなジジイ程度じゃ、お前は止められねぇか」
「ごふ……っ!?」
ヴォルザークの胸に、真・準聖剣が深々と突き立っていた。
「もう一度吹き飛ばしてくれる! 貴公の反撃もこれまで……」
「な訳がないだろうっ!」
暴風を解放される間際、真・準聖剣を魔剣で押さえ込みながら……ヴォルザークの胴に右翼を叩き込む!
「ぬ、うぅっ……!?」
翼がヴォルザークの体に接触した瞬間、右翼全体から噴出する魔力を爆発的に増加させる。
それによってヴォルザークが纏う風の鎧を引き裂きながら、背後の壁際まで弾き飛ばす!
「ガハッ……!?」
壁にヒビを入れてその身をめり込ませながら、ヴォルザークは口元からくぐもった声と血を滴らせる。
手応えとしては、今までにないほどにはっきりとしていた。
鋼鉄にも勝る強度の翼撃により、恐らく骨の数本はもらっただろう。
……しかし、ヴォルザークも馬鹿ではない。
即座に神樹の魔力を使い、白魔で体の再生を始めた。
「……これが貴公本来の力か。ならば……!」
ヴォルザークは壁から自身の体を引き剝がした後、握りしめた真・準聖剣に纏わせる暗緑色の魔力を増大させ、自身にもその魔力を付与した。
その身に宿る魔力が、竜種並みに強大なものとなっていくのを感じる。
ヴォルザークから発された殺気に、肌が痺れたその刹那。
──これは、来る!
「覚悟せよ、半魔の英雄!」
そう告げるヴォルザークは地を踏み砕き、瞬間移動と見紛う速度で目と鼻の先にまで迫っていた。
こちらの首元を狙って振られた神速の刃を、僕は……。
「ラァッ!」
魔剣を強引に振って、防ぎきる!
魔族化の力を使ってもなお腕が痺れる威力の一太刀に、僕の野生の勘が一撃すらモロに受けるなと告げていた。
「それならば、数を打ち込むのみ!」
だが、ヴォルザークの連撃は留まるところを知らない。
ただひたすら、嵐のような連撃を繰り出し続ける。
残像のみを辛うじて捉えられるような超速の剣戟を、僕は勘任せに体を捻って躱していく。
次に正面から振られた一閃を魔剣で受け、背後に回り込まれてからの斜め斬りを右翼で受け止める。
その須臾……真・準聖剣の
「くっ……!」
結晶体が如何に超高密度魔力とは言え、魔族の力である以上は真・準聖剣のカモでしかない。
一撃たりともあの刀身を体に直接受けてはならないと、勘だけでなく身をもって再認識する。
「どうした、動きが鈍いぞ!」
「余計なお世話だ……!」
更に胴を横薙ぎにする迅斬を……魔剣で弾き上げてから左翼を軸に飛翔し、空中へ逃れる!
「……!」
ヴォルザークの腕が跳ね上がっている隙に、ポーチから予め取り出してあった杭を放つ。
魔族化して強化された筋力による投擲は最早、射出と形容した方が正しいだろう。
弩弓をも超える速度で放たれた二本の杭は、一本は咄嗟に弾かれたものの、もう一本はヴォルザークの左太ももへと深々と突き刺さった。
「うぐぅ!? 何の、これしき!!」
ヴォルザークは足から杭を引き抜きながら、こちらに魔法陣を向けた。
そのまま無詠唱で第四階梯相当の炎の槍を無数に生成し、僕を穿とうと報復をしにかかってきた!
「……っ!」
僕の背丈ほどもある槍の嵐は、一本でも炸裂すれば墜落は必至。
物量で攻め立てて来るヴォルザークに対し、こちらは飛翔しながら前後左右、縦横無尽にフェイントをかけて躱していく……!
『流石はフリーデン様、勇者一味の猛攻を捌ききっただけのことはあります……!』
「それはどうも……っ!」
ヴォルザークの周囲を数周飛び回ったところで……地面すれすれまで高度を落とし、一気にあちらへと飛来する!
「ぐっ……狙いが!?」
僕が急激に軌道を変えたことで、ヴォルザークは焦ったのかこちらの動きに対応しきれていない。
更に足のダメージもあり、もう回避に転ずることもできないだろう。
──今しかない、ここで決める!
『フリーデン様!』
「うおおおおおおおおおお!」
残る魔力の大半を両翼に送り込み、急加速をかける。
槍の雨霰が体の各所を掠めながらも、止まることなくヴォルザークへと肉薄する。
同時に魔剣に魔力を込め……すれ違いざまに真・準聖剣をヴォルザークの手から弾き飛ばす!
「なっ、我が
真・準聖剣がヴォルザークの手から離れた途端、その体が、髪が、再びゆっくりと老人のものへと戻りだした。
それを確認しながら、宙に浮く真・準聖剣を左翼で遠方へと弾き飛ばす!
──これでヴォルザークは逆転の目を失った。
後は弱る一方だ!
「おのれ、おのれ、おのれェ……! 薄汚れた混ざり物如きに、この儂が! ……こうなっては致し方あるまい。残る魔力を解放し、この祭壇諸共……貴公を消し去ってくれよう!」
ヴォルザークは恨み言を吐きながら、自身の正面に魔法陣を四重に構築する。
それらはそれぞれ、炎、水、風、地の四属性によるものであると、一瞬で見て取れた。
──この魔法陣の構成……間違いない!
ヴォルザークは竜のブレス並みの魔力を解放しながら、声を張り上げた。
「気がついたか英雄! だが鈍い!! 前魔王が愛用していたと聞く第五階梯最高位の超魔法、デバステイターによって、貴公らを粉々に分解してくれるわ!」
大気が、地が、空間が。
規格外の「超魔法」の発動で震え上がる。
四属性の魔力を練り混ぜ、森羅万象全てを破壊するとも言われるその魔法は、ヴォルザークの言う通り確かに魔王様が愛用していたものだった。
──ただし、どれだけ強大な魔法も発動する前ならば……!
魔力の解放で速度を上げたまま、僕は魔法を回避するのではなく……再度ヴォルザークの眼前へと躍り出る。
「馬鹿な、一体何を!?」
僕の行動に対し、驚愕に顔を歪めるヴォルザークのその正面にて。
「ラァッ!!」
解放間際の魔法陣を、結晶体に覆われた赫々の拳をもってして……修復不可能なほどに砕き割る!
魔道具作りの時にも考えたように、魔法陣は「属性魔力の調整や出力制御に関する術式の略図」なのだ。
そして魔法陣が現れてくれるからこそ、魔法は最適な発動を行うことができる。
──それはつまり、裏を返すと……!
「……魔力で編まれた結晶体で干渉し、魔法を無効化したとでも言うのか……!?」
──魔法陣を砕いてしまえば、魔法の発動そのものを無効化することができる!
……無効化された魔法陣が、光粒子として散りゆく最中。
僕の拳から発された魔力の衝撃波によって、力を失い老いたヴォルザークの体は容易く浮き上がり……その先で倒れ伏した。
仰向けのヴォルザークは自嘲気味に、深い皺の入った顔を歪めた。
「……そうか。赫々『極砕』の英雄……か。まさか
これまで受けたダメージもあってか、ヴォルザークはもう恨み言すら吐かず、立ち上がる気配もなかった。
──終わった、のか……っ!?
「げほっ……!?」
ヴォルザークを討伐したことに安堵した途端、口元にこみ上げてきたモノがあった。
それを吐き出すと地面に毒々しい黒みのかかった赤い華が咲き、魔剣が『フリーデン様!?』と悲鳴を上げた。
『すぐに白魔で治癒を施しますので、しばしお待ちを!』
「……助かるよ」
魔剣の力で体が修復され、焼け付くような痛みが引いていく。
少々無茶をしすぎた感覚は否めないものの、それでも体はこうして繋がっているし、痛みこそするもののしっかりと動く。
またゆっくりと休めば、ちゃんと元に戻るだろう。
……でも、休む前にやることがある。
「……神樹と、真・準聖剣を……完全に破壊しないと」
今回の一件を企てたヴォルザークは倒した。
後はこれで真・準聖剣、それに神樹を破壊すれば……今回の一件は全て終わるだろう。
神樹そのものが完全に死に絶えれば、ローレライの一族であるらしいユノも、ただの女の子になる筈だ
そう思って、先刻弾き飛ばした真・準聖剣はどこに突き刺さっているのかと首を回そうとしたその瞬間。
「あーぁ。やっぱりこんなジジイ程度じゃ、お前は止められねぇか」
「ごふ……っ!?」
ヴォルザークの胸に、真・準聖剣が深々と突き立っていた。