32話
文字数 3,568文字
「おのれ……混ざり物の半端者が!」
砂埃の立ち込める中、ヴォルザークは忌々しげに罵詈雑言を吐き捨て跳躍して来た。
それに対し、こちらも応戦するべく祭壇から飛び降りる……その直前。
「バーン、ユノとワカバを守るんだ!」
『ピー!』
僕の胸元から出て来たバーンが二人の元へ飛んで行ったのを確認した後、ヴォルザークへと視線を戻す。
「ふっ!」
「むんっ!」
空中にて刀身と刀身が再び接触し、再び純粋な力比べとなり押されかける。
真・準聖剣から発される尋常ならざる魔力に対し、こちらも紫電を解放して対抗する。
──斬り合いだけじゃ埒があかない……ならっ!
右足へ魔力を溜め込み、踵から放出。
魔力を推進力として、爆速の回し蹴りをヴォルザークの脇腹へと叩き込む!
「……当たらんぞ!」
しかしヴォルザークはこちらの動きを読んでいたのか、魔力を解放して強引に僕を風圧で弾き飛ばした。
一見してそれは、残存魔力 を盛大に無視した魔力の無駄遣いだ。
然れどそれは……ヴォルザークが無駄に消費できるほど、膨大な魔力を保持しているということを示していた。
「ぐっ……!」
爆風を咄嗟に魔剣で受けたものの、その衝撃で今度は僕が地へと落下することとなった。
「隙あり!」
豪風を纏い、地へ向かう僕へとヴォルザークが頭上から迫って来た。
反撃しなければ、その後は語るまでもないだろう。
僕は魔剣を握っていない左手でポーチからあるものを数本取り出し、ヴォルザークへと投擲する。
無数にヴォルザークへと向かったそれは、魔法陣が手彫りされた漆黒の杭だ。
放たれた杭は狙い過たず、ヴォルザークの胴へと迫るが……!
「所詮、子供騙しにすぎぬ!」
ヴォルザークは杭を纏めて暴風でなぎ払い、それらは祭壇や壁際などに突き刺さってしまった。
暴風の鎧は、そう易々と突破できない。
──とはいえ、時間稼ぎにはこれで十分!
この隙に大技を繰り出して、一気に決める!
着地した僕は、ヴォルザークに向け左手を構える。
「猛き赤よ! 灰燼に帰せ!」
第三階梯 の爆炎が手のひらの中で、赤い魔法陣と共に溜め込まれ……。
『フリーデン様!』
「フラッシュパージッ!!!」
魔剣による魔法強化 もあり、破壊をもたらす第四階梯 並みの火球が閃光と共に放たれる!
「ほうほう、流石は英雄。だがな……エルフに対して魔法攻撃など、愚の骨頂と知れ!」
ヴォルザークは迫り来る火球に臆するそぶりも見せず、真・準聖剣を握っていない左手を振りかざした。
するとそれだけで……第四階梯の水属性魔法、フラッドボムが発動した!
──魔法に長けるエルフの総族長とはいえ、これほどの使い手とは……!
触れたものを問答無用で爆砕する火球と、小山を抉り取るほどの爆発能力を内蔵した水球が正面から衝突する。
結果……破砕音を轟かせながら、水蒸気の霧と魔力を撒き散らして大爆発が発生する!
白の帳に覆われた僕は、魔力感知を働かせながら周囲を警戒する。
しかし……水蒸気そのものに水属性魔力が含まれていたため、うまくヴォルザークの魔力を捕捉できずにいた。
「どこだ……!?」
ヴォルザークの気配は近くにある。
だからユノの元には行かずに、僕の隙を虎視眈々と狙っているということも分かる。
僕はポーチから再度杭を取り出し、左手の指と指の間に四本装備した。
──さぁ、どこから飛び出してくる……!?
『上です!』
魔剣の叫びと共に、両足に魔力を叩き込んで一気に駆け出す。
地を踏み砕きながら、普段の倍近い移動速度で僕がその場から退いた直後。
風の刃が先ほどまで僕のいた空間を穿ち、地を木端のように斬り刻んだ。
その衝撃で吹き飛ばされながら、背後を見れば……。
視線の先には、成体の火竜一体が丸ごと入れるほどの巨大なクレーターが形成されていた。
──第五階梯 の風属性魔法、バーストカノン。
モロに受けていたら、間違いなく手足のどれかが吹き飛んでた……!
「まだまだ!」
第五階梯 の魔法を放ったばかりの筈のヴォルザークが、空中で真・準聖剣を振り上げ、刀身から発された暗緑色の魔力が地を照らした。
その途端……地から生じた木々の根が、僕を串刺さんと殺到する!
「デタラメな……!」
予想外の地下からの急襲に、僕は咄嗟に跳躍して空中へと逃れた。
さながら森そのものに追い立てられているかのような、そんな錯覚を覚えるほどの迫力。
僕は魔剣の紫電で、槍のように鋭利な根を数十……いや、百は焦がし斬る。
同時に、ヴォルザークから更に距離を取るようにして数度後へ跳ね飛んだ。
「……運良く避けたか」
先ほどの爆発で生じた霧が消えつつある中、ヴォルザークは興醒めした表情で降りてくる。
最早こちらのことなど、相手になるとも思ってもいないのだろう。
僕は迫り来るヴォルザークを見据えながら、ある決断をした。
──こうなったら、もう……あれしかないか。
こうして防戦一方に押し込まれている以上、このままではジリ貧になるのは確実。
それにあの真・準聖剣から滲み出る魔力と、強力な魔殺兵装 の気配からして……追い込まれてまともに一撃を貰えば、間違いなくそのまま戦闘不能になることだろう。
それならば……無理をしてでも、畳み掛けるしかない!
「アン、力を貸して欲しい」
『……! 承知致しました!』
詳しく伝えずとも、魔剣は即座に僕の考えを理解し、その刀身にはめ込まれた宝玉から魔力を送ってきてくれた。
膨大な魔力が稲妻のように体内を駆け巡り、普段とは比にならないほどの激痛に呻きかける。
でも……これでいい。
今はただ、魔力が必要だ!
「むっ……? この感覚……そうか。遂に本気で剣を交える気になったか!」
高笑いをするヴォルザークを手にした杭の投擲で牽制しながら、僕は体の内側から魔力を解放していく。
赫い魔力の渦が胸元から生じ、僕の切り札……魔族化の力が体外に漏れ出す。
常時第五階梯並みの魔力を消費するその力を完全解放するのは、今の僕にとっては自爆に等しい暴挙だ。
だがしかし……一部だけなら、恐らく話は別。
勝機を掴むため、必要最低限の力を解放して持ち堪える!
「グッ……!」
背に焼け付くような感覚が芽生え、そこから結晶体の翼が生成され始める。
更に手足も、次第に超高密度魔力で編まれた結晶体に覆われていく。
体の変化と共に五感が冴え、時間が停滞するかのような感覚を覚える。
筋力も上限が解放され、魔力で強化している時以上に強靭になっていく。
ただし全身で感じる激痛が訴えるのは、体にかかった制限時間。
それを過ぎれば、待つのは肉体の限界による自滅。
だからこそ、狙うは短期決戦。
自分の体が潰れるより先に、ヴォルザークを倒しきる!
「……ッ! ハァッ!!」
気合いと共に魔族化を食い止め、生成した巨大な翼を広げて余剰魔力を散らす。
それから、痛みで焼け付く頭を駆使して自分の状態を再確認する。
──体は今のところ、どうにか保てている。
展開した結晶体は約四割……でも、これなら。
僕は指の感覚を確かめるようにして魔剣を握り込み、構えた。
──全盛期には程遠くとも、目の前の難敵には食らいつける!
「フッ!」
体内の熱を鋭くした呼気と共に吐き出し、翼を広げて飛び立つ。
そのまま翼から吹き出す魔力を推進力として、ヴォルザークに向かい一心不乱に突き進む!
「速い……! ……グゥッ!?」
ヴォルザークは爆風で僕の攻撃を正面から受けようとするが、生憎とこちらは先ほどまでとは別物。
竜種並みの速度で飛翔しながら風の障壁を突き破り、真・準聖剣本体と斬り結ぶ!
「はっ……アッハッハッハ! 良い……良いぞ! ようやく現れたな、赫々極砕の英雄!」
戦いに酔うヴォルザークは背後へと押されながらも、血走った眼を見開いて狂人的に笑う。
力に溺れ狂気に染まった者と対峙したその感覚は、かつて勇者と戦った時と同様のものだった。
「さあ、ここからが真の戦いだ……! 面白くなって来たではないか、英雄!」
「生憎と……これが面白いと思うほど、踏み外しちゃいない!」
売り言葉に買い言葉。
ここから戦いは第二ラウンドに進むのだと、僕の勘が告げていた。
砂埃の立ち込める中、ヴォルザークは忌々しげに罵詈雑言を吐き捨て跳躍して来た。
それに対し、こちらも応戦するべく祭壇から飛び降りる……その直前。
「バーン、ユノとワカバを守るんだ!」
『ピー!』
僕の胸元から出て来たバーンが二人の元へ飛んで行ったのを確認した後、ヴォルザークへと視線を戻す。
「ふっ!」
「むんっ!」
空中にて刀身と刀身が再び接触し、再び純粋な力比べとなり押されかける。
真・準聖剣から発される尋常ならざる魔力に対し、こちらも紫電を解放して対抗する。
──斬り合いだけじゃ埒があかない……ならっ!
右足へ魔力を溜め込み、踵から放出。
魔力を推進力として、爆速の回し蹴りをヴォルザークの脇腹へと叩き込む!
「……当たらんぞ!」
しかしヴォルザークはこちらの動きを読んでいたのか、魔力を解放して強引に僕を風圧で弾き飛ばした。
一見してそれは、
然れどそれは……ヴォルザークが無駄に消費できるほど、膨大な魔力を保持しているということを示していた。
「ぐっ……!」
爆風を咄嗟に魔剣で受けたものの、その衝撃で今度は僕が地へと落下することとなった。
「隙あり!」
豪風を纏い、地へ向かう僕へとヴォルザークが頭上から迫って来た。
反撃しなければ、その後は語るまでもないだろう。
僕は魔剣を握っていない左手でポーチからあるものを数本取り出し、ヴォルザークへと投擲する。
無数にヴォルザークへと向かったそれは、魔法陣が手彫りされた漆黒の杭だ。
放たれた杭は狙い過たず、ヴォルザークの胴へと迫るが……!
「所詮、子供騙しにすぎぬ!」
ヴォルザークは杭を纏めて暴風でなぎ払い、それらは祭壇や壁際などに突き刺さってしまった。
暴風の鎧は、そう易々と突破できない。
──とはいえ、時間稼ぎにはこれで十分!
この隙に大技を繰り出して、一気に決める!
着地した僕は、ヴォルザークに向け左手を構える。
「猛き赤よ! 灰燼に帰せ!」
『フリーデン様!』
「フラッシュパージッ!!!」
魔剣による
「ほうほう、流石は英雄。だがな……エルフに対して魔法攻撃など、愚の骨頂と知れ!」
ヴォルザークは迫り来る火球に臆するそぶりも見せず、真・準聖剣を握っていない左手を振りかざした。
するとそれだけで……第四階梯の水属性魔法、フラッドボムが発動した!
──魔法に長けるエルフの総族長とはいえ、これほどの使い手とは……!
触れたものを問答無用で爆砕する火球と、小山を抉り取るほどの爆発能力を内蔵した水球が正面から衝突する。
結果……破砕音を轟かせながら、水蒸気の霧と魔力を撒き散らして大爆発が発生する!
白の帳に覆われた僕は、魔力感知を働かせながら周囲を警戒する。
しかし……水蒸気そのものに水属性魔力が含まれていたため、うまくヴォルザークの魔力を捕捉できずにいた。
「どこだ……!?」
ヴォルザークの気配は近くにある。
だからユノの元には行かずに、僕の隙を虎視眈々と狙っているということも分かる。
僕はポーチから再度杭を取り出し、左手の指と指の間に四本装備した。
──さぁ、どこから飛び出してくる……!?
『上です!』
魔剣の叫びと共に、両足に魔力を叩き込んで一気に駆け出す。
地を踏み砕きながら、普段の倍近い移動速度で僕がその場から退いた直後。
風の刃が先ほどまで僕のいた空間を穿ち、地を木端のように斬り刻んだ。
その衝撃で吹き飛ばされながら、背後を見れば……。
視線の先には、成体の火竜一体が丸ごと入れるほどの巨大なクレーターが形成されていた。
──
モロに受けていたら、間違いなく手足のどれかが吹き飛んでた……!
「まだまだ!」
その途端……地から生じた木々の根が、僕を串刺さんと殺到する!
「デタラメな……!」
予想外の地下からの急襲に、僕は咄嗟に跳躍して空中へと逃れた。
さながら森そのものに追い立てられているかのような、そんな錯覚を覚えるほどの迫力。
僕は魔剣の紫電で、槍のように鋭利な根を数十……いや、百は焦がし斬る。
同時に、ヴォルザークから更に距離を取るようにして数度後へ跳ね飛んだ。
「……運良く避けたか」
先ほどの爆発で生じた霧が消えつつある中、ヴォルザークは興醒めした表情で降りてくる。
最早こちらのことなど、相手になるとも思ってもいないのだろう。
僕は迫り来るヴォルザークを見据えながら、ある決断をした。
──こうなったら、もう……あれしかないか。
こうして防戦一方に押し込まれている以上、このままではジリ貧になるのは確実。
それにあの真・準聖剣から滲み出る魔力と、強力な
それならば……無理をしてでも、畳み掛けるしかない!
「アン、力を貸して欲しい」
『……! 承知致しました!』
詳しく伝えずとも、魔剣は即座に僕の考えを理解し、その刀身にはめ込まれた宝玉から魔力を送ってきてくれた。
膨大な魔力が稲妻のように体内を駆け巡り、普段とは比にならないほどの激痛に呻きかける。
でも……これでいい。
今はただ、魔力が必要だ!
「むっ……? この感覚……そうか。遂に本気で剣を交える気になったか!」
高笑いをするヴォルザークを手にした杭の投擲で牽制しながら、僕は体の内側から魔力を解放していく。
赫い魔力の渦が胸元から生じ、僕の切り札……魔族化の力が体外に漏れ出す。
常時第五階梯並みの魔力を消費するその力を完全解放するのは、今の僕にとっては自爆に等しい暴挙だ。
だがしかし……一部だけなら、恐らく話は別。
勝機を掴むため、必要最低限の力を解放して持ち堪える!
「グッ……!」
背に焼け付くような感覚が芽生え、そこから結晶体の翼が生成され始める。
更に手足も、次第に超高密度魔力で編まれた結晶体に覆われていく。
体の変化と共に五感が冴え、時間が停滞するかのような感覚を覚える。
筋力も上限が解放され、魔力で強化している時以上に強靭になっていく。
ただし全身で感じる激痛が訴えるのは、体にかかった制限時間。
それを過ぎれば、待つのは肉体の限界による自滅。
だからこそ、狙うは短期決戦。
自分の体が潰れるより先に、ヴォルザークを倒しきる!
「……ッ! ハァッ!!」
気合いと共に魔族化を食い止め、生成した巨大な翼を広げて余剰魔力を散らす。
それから、痛みで焼け付く頭を駆使して自分の状態を再確認する。
──体は今のところ、どうにか保てている。
展開した結晶体は約四割……でも、これなら。
僕は指の感覚を確かめるようにして魔剣を握り込み、構えた。
──全盛期には程遠くとも、目の前の難敵には食らいつける!
「フッ!」
体内の熱を鋭くした呼気と共に吐き出し、翼を広げて飛び立つ。
そのまま翼から吹き出す魔力を推進力として、ヴォルザークに向かい一心不乱に突き進む!
「速い……! ……グゥッ!?」
ヴォルザークは爆風で僕の攻撃を正面から受けようとするが、生憎とこちらは先ほどまでとは別物。
竜種並みの速度で飛翔しながら風の障壁を突き破り、真・準聖剣本体と斬り結ぶ!
「はっ……アッハッハッハ! 良い……良いぞ! ようやく現れたな、赫々極砕の英雄!」
戦いに酔うヴォルザークは背後へと押されながらも、血走った眼を見開いて狂人的に笑う。
力に溺れ狂気に染まった者と対峙したその感覚は、かつて勇者と戦った時と同様のものだった。
「さあ、ここからが真の戦いだ……! 面白くなって来たではないか、英雄!」
「生憎と……これが面白いと思うほど、踏み外しちゃいない!」
売り言葉に買い言葉。
ここから戦いは第二ラウンドに進むのだと、僕の勘が告げていた。