34話
文字数 4,428文字
「なっ……!?」
──いつの間に真・準聖剣が……!?
思わず顔を上げると、そこには一人の人物が立っていた。
「ぐ、ぐお……ぁ……!?」
苦悶の声を上げるヴォルザークの胸に刃を突き立てていたのは、赤い瞳が特徴的な長身痩躯の青年だった。
髪は少し長めの白で、服装は魔王領のどこの村にでもいる若人が着ているような半袖長ズボン、それに短靴。
そんな彼はつまらなさそうに玩具を弄る子供のような目つきで、ヴォルザークの胸の傷をほじくり返した。
「ごぁ、あぁ……ッ! き、貴公は一体何を……外の連中の相手をしているのではなかったのか……!? ……まさかこの儂を、裏切ったとでも……!?」
血泡を食いながら自身の足元でまくし立てるヴォルザークに、青年は薄ら笑いを浮かべた。
「は? 裏切ったぁ? ……おいおい爺さん、あまり笑わせないでくれよ。裏切ったんじゃなくて……もういらねぇから見限ったんだよ!」
「ま、待て!」
「嫌だねー」
ヴォルザークが無詠唱で回復系の白魔の魔法陣を展開しようとした瞬間、青年が彼の首を一瞬で刎ねた。
青年の顔に血飛沫がかかり、彼は口元へと伝ってきたそれを舌で舐め取る。
「いやー、ね。魔法を無効化したけりゃあわざわざ魔法陣を砕かなくても、こうして手っ取り早く術者を殺しちまえばいいと思わねぇか? なぁ、英雄様よぉ」
青年は真・準聖剣を肩に担ぎながら、僕へと話しかけてきた。
というのも、彼と僕とは……一応の顔見知りであるからだ。
……まさかこんなところで再開するとは、思ってもみなかったが。
「おうおう! 久しぶりなんだから、そっちもだんまり決め込んでないで何か喋ってくれよ!」
たった今一人殺めたとは思えない彼の軽い物言いに、僕は内心の衝撃を悟られないよう口を開いた。
「久しぶりだね……イグザリオン。……それと残念ながら、僕は君みたいに積極的に誰かを殺そうとは思わないよ」
「ハッ、お優しいこった! そんな甘ちゃんだから、前も俺のことを見逃したのか?」
「いや。あの時は君の逃げ足に僕の徒士が負けた、って言う方が正しいさ」
「ほーぉ、そりゃ皮肉のつもりか? それならよ、もっと嫌味って味を効かせてくれや。……話していても、美味しくねーぜ?」
『……フリーデン様。そこの方とはお知り合いのようですが……まさか、ご友人なのですか?』
軽口を叩き合う僕らの雰囲気に何を感じたのか、魔剣が不思議なことを聞いてきた。
そんな彼女に、僕は即答した。
「彼は敵だよ、間違いなく」
「おう、そうだぜ魔剣さんよ。俺とそこの英雄様は、言うなれば天敵同士だ。大切にしてることが被っている以外は……思想も性格も正反対。全く、あべこべの鏡を見せつけられている気分だっつーの」
イグザリオンは同意を見せつつ軽口を叩き続けているが……こちらを見据える双眸がとある拍子に殺気に染まったのを、僕は見逃さなかった。
一瞬でこちらに詰め寄ってきたイグザリオンに対し、魔剣と両翼を振るうことで対応する。
閃光が三度煌めき、薄暗い空間を照らし出した。
「……!」
イグザリオンが繰り出した剣戟が狙ってきたのは、首、胸、腹。
狙い過たず、どれもこれも弾いていなければその時点で瀕死に至る箇所。
コンマ数秒のうちに三度打ち合っただけでも、イグザリオンの力量が以前よりも遥かに増していることを悟るには、それで十分すぎていた。
「ははっ! 流石だぜ、英雄様ぁ! 手負いとは言え、今の俺と張るレベルとは恐れ入った。もう魔王軍でヒラやっていた時どころか、四天王共すら目じゃあねーなぁ!」
「君こそ、強くなったものだね!」
互いに再度剣を弾き合い、距離を取る。
『……フリーデン様。あの方は、もしかして……』
イグザリオンと睨み合いをする最中、魔剣が囁くようにして僕に問いかけてきた。
僕もまた、小声で魔剣に答える。
「ああ……彼は純粋な魔族だよ。今は角や翼を隠しているみたいだけど、やっぱりアンには分かるんだ」
『直接打ち合えば、それは勿論。そして先ほどの会話から察するに、お二人は魔王軍が健在だった頃に知り合ったのですか?』
「……とある任務でね」
その任務の内容は、今でも鮮明に思い出すことができる。
魔王軍の仕事は、何も外敵から魔王領を守ることだけじゃない。
治安維持もまた、僕らの仕事だった。
魔王軍に在籍していたある日のこと、僕はとある任務を魔王様から仰せつかった。
それは当時多発していた、誘拐事件の解決だった。
一月で百名以上の人間や魔族が行方不明になり、一大事であると当時は大騒ぎになった事件である。
その後程なくして、僕やエイミーの配属されていた部隊は、遂にその首謀者がいると思われる根城に足を踏み入れた。
そして、そこで見たものとは……。
「……僕はその任務で、彼が攫った人間や魔族が儀式の生贄にされているところを目にした。……あの悲惨な光景は、今でも忘れられない」
しかもあの時のイグザリオンは、全身血まみれになりながらも真顔でかつ黙々と儀式を進めていた。
また、イグザリオンはあの時、命をただの「もの」として見ているような、目的のためにはどんな犠牲も厭わないような……そんな達観した顔つきをしていたのだ。
僕と歳は大して変わらないだろうに、一体どういう生き方をしてきたらあんな表情をすることができるのだろうかと、どこか恐ろしくなったのを今でもよく覚えている。
……もっとも、いざ儀式を止めようとしてそこから戦闘に移ったら、さっきみたいな口調で話し出したからそれはそれでびっくりしたんだけど。
『ちなみに……彼は一体、どのような儀式を進めていたのですか?』
魔剣の質問に答えようとすると、聞き耳を立てていたらしいイグザリオンは「まぁ待てよ」と僕を止めた。
「それは俺から言わせてもらうぜ。ぶっちゃけ、そこに転がっているジジイと手を組むふりをしたのは、あの時お前に邪魔された儀式をもう一回やるためだからな」
「……やっぱり、君の狙いは今でも」
イグザリオンは両手を広げ、演劇に出てくる役者のように語り出す。
「ああ、そうだよ。俺が行いたい儀式は後にも先にもただ一つ。……死んだアイツを蘇らせるための返魂術。俗に言う、死者蘇生ってやつだ!」
『なっ……!? そんなもの、できっこありません。あらゆる魔法に精通する魔剣の私が、それだけは保証します。だから、そんな愚かなことは……!』
魔剣は必死にイグザリオンを止めようとするが、それには当然訳がある。
死者蘇生。
それは古今東西あらゆる場所で試されている魔法を超えた奇跡にして、その失敗によってあらゆる災厄をもたらした禁術でもある。
無関係な人間の徘徊屍鬼 化に、時空間の捻転による都市の消滅などなど、その凄惨な失敗結果の例には枚挙にいとまがない。
だからこそ、魔剣はイグザリオンをこうして止めようとしているのだ。
……だが。
「おっと、そーんな説教されたって無駄だぜ? ……この俺がその試行錯誤の末に、一体何人殺してきたと思っているんだよ? だからよ……もうどんな犠牲が出ようと! どんな代償を払おうと! ……知ったことではないのさ」
イグザリオンの爛々とギラつく危なげな双眸は、もう何がなんでも目的のために突き進むと、口以上に語っていた。
「……でも、死者の蘇生は不可能だと、現実的ではないと君自身があの時一番よく分かった筈だ。百二人分の魂を使っても君の目的は達成されなかった、そうだろう!」
僕もまたあの事件を止めた経験から、死者蘇生は不可能だと悟った身だ。
そしてそれは、死者蘇生に失敗したイグザリオン自身が誰よりも分かっている筈なのだ。
……するとイグザリオンは、少し固まった後で腹を抱えて笑いだした。
「おいおい、分かっているようで分かっちゃいねぇなぁ! 鈍いぜフリーデン! 百二人じゃ足りないから……こうして神樹の魔力をかき集めに来ている訳だろうが」
そこまで聞いて、僕ははたと閃いた。
「……! いや、まさか!?」
「そのまさかだな! そもそも神樹を復活させるって計画は、最初からこの俺が乗っ取るために仕組まれたようなものなんだよ!」
──ヴォルザークと手を組むふりをしたっていうのは、そういうことか!
これでイグザリオンがこの場にいることに、辻褄があった。
ここにある完成度の高い祭壇を使えば、おおよその儀式を成立させることは可能だろう。
それに膨大な神樹の魔力を、ユノを生贄にした儀式で一点に集約して死者蘇生を行えば……あるいは、もしかしたら。
神樹の魔力が並外れた質と無尽蔵に思える量なだけに、成功する可能性は「当然限りなくゼロに近い」と言えても「ゼロではないかもしれない」と僕ですら一瞬だけ思えてしまったところが、イグザリオンの語る計画の嫌なところだ。
ともかくイグザリオンの狙いは最初から、神樹の魔力を使って死者蘇生の儀式を行うことにあったのだ。
……当然、隙を狙ってヴォルザークを排除した後に。
ある意味イグザリオンの計画に与してしまったのかと思うと、正直頭が痛くなる思いではある。
「……それと『最初から乗っ取るために仕組まれた』……か。その最初っていうのは、もしかしてエルフの過激派が人間と戦おうと決意した辺りからかい?」
自分に都合のいい状況を作り出すべく、用意周到なイグザリオンならそれくらいから仕組むだろう。
半ば確信めいた感覚を持ちながら問いかければ「ご明察」とイグザリオンは親指を立てた。
「いやー、な。死者蘇生をしようにも、人間や魔族の魂が百と少しくらいじゃ役者不足だってなると……やっぱり神樹とか竜種とか、そういうとんでもない存在の魔力を使うしかねぇかなって思ったんだよ。そこで人間への恨みが分かりやすく募っていたエルフ達を利用させてもらったって訳。まぁ、つってもあれだけ憤っていた様子じゃあ、俺が適当に炊きつけなくてもそのうち人間に対して開戦していたような気もするけどな」
そうして、イグザリオンは「さて」と真・準聖剣の剣先をこちらへと向けてくる。
「つー訳で、俺の狙いはお前が守る生贄だ。だから俺はこれからお前をぶっ殺して、生贄を頂こうと思うんだが……無駄話もこれくらいにして、もう本格的に始めようぜ? 元SSSランク討伐対象、赫々極砕の英雄! ……といっても、お前はもう時間切れみたいだけどな」
「……くっ!」
イグザリオンがそう告げた瞬間、僕の体を覆っていた結晶体が破砕音を立てながら崩壊を始めた。
──いつの間に真・準聖剣が……!?
思わず顔を上げると、そこには一人の人物が立っていた。
「ぐ、ぐお……ぁ……!?」
苦悶の声を上げるヴォルザークの胸に刃を突き立てていたのは、赤い瞳が特徴的な長身痩躯の青年だった。
髪は少し長めの白で、服装は魔王領のどこの村にでもいる若人が着ているような半袖長ズボン、それに短靴。
そんな彼はつまらなさそうに玩具を弄る子供のような目つきで、ヴォルザークの胸の傷をほじくり返した。
「ごぁ、あぁ……ッ! き、貴公は一体何を……外の連中の相手をしているのではなかったのか……!? ……まさかこの儂を、裏切ったとでも……!?」
血泡を食いながら自身の足元でまくし立てるヴォルザークに、青年は薄ら笑いを浮かべた。
「は? 裏切ったぁ? ……おいおい爺さん、あまり笑わせないでくれよ。裏切ったんじゃなくて……もういらねぇから見限ったんだよ!」
「ま、待て!」
「嫌だねー」
ヴォルザークが無詠唱で回復系の白魔の魔法陣を展開しようとした瞬間、青年が彼の首を一瞬で刎ねた。
青年の顔に血飛沫がかかり、彼は口元へと伝ってきたそれを舌で舐め取る。
「いやー、ね。魔法を無効化したけりゃあわざわざ魔法陣を砕かなくても、こうして手っ取り早く術者を殺しちまえばいいと思わねぇか? なぁ、英雄様よぉ」
青年は真・準聖剣を肩に担ぎながら、僕へと話しかけてきた。
というのも、彼と僕とは……一応の顔見知りであるからだ。
……まさかこんなところで再開するとは、思ってもみなかったが。
「おうおう! 久しぶりなんだから、そっちもだんまり決め込んでないで何か喋ってくれよ!」
たった今一人殺めたとは思えない彼の軽い物言いに、僕は内心の衝撃を悟られないよう口を開いた。
「久しぶりだね……イグザリオン。……それと残念ながら、僕は君みたいに積極的に誰かを殺そうとは思わないよ」
「ハッ、お優しいこった! そんな甘ちゃんだから、前も俺のことを見逃したのか?」
「いや。あの時は君の逃げ足に僕の徒士が負けた、って言う方が正しいさ」
「ほーぉ、そりゃ皮肉のつもりか? それならよ、もっと嫌味って味を効かせてくれや。……話していても、美味しくねーぜ?」
『……フリーデン様。そこの方とはお知り合いのようですが……まさか、ご友人なのですか?』
軽口を叩き合う僕らの雰囲気に何を感じたのか、魔剣が不思議なことを聞いてきた。
そんな彼女に、僕は即答した。
「彼は敵だよ、間違いなく」
「おう、そうだぜ魔剣さんよ。俺とそこの英雄様は、言うなれば天敵同士だ。大切にしてることが被っている以外は……思想も性格も正反対。全く、あべこべの鏡を見せつけられている気分だっつーの」
イグザリオンは同意を見せつつ軽口を叩き続けているが……こちらを見据える双眸がとある拍子に殺気に染まったのを、僕は見逃さなかった。
一瞬でこちらに詰め寄ってきたイグザリオンに対し、魔剣と両翼を振るうことで対応する。
閃光が三度煌めき、薄暗い空間を照らし出した。
「……!」
イグザリオンが繰り出した剣戟が狙ってきたのは、首、胸、腹。
狙い過たず、どれもこれも弾いていなければその時点で瀕死に至る箇所。
コンマ数秒のうちに三度打ち合っただけでも、イグザリオンの力量が以前よりも遥かに増していることを悟るには、それで十分すぎていた。
「ははっ! 流石だぜ、英雄様ぁ! 手負いとは言え、今の俺と張るレベルとは恐れ入った。もう魔王軍でヒラやっていた時どころか、四天王共すら目じゃあねーなぁ!」
「君こそ、強くなったものだね!」
互いに再度剣を弾き合い、距離を取る。
『……フリーデン様。あの方は、もしかして……』
イグザリオンと睨み合いをする最中、魔剣が囁くようにして僕に問いかけてきた。
僕もまた、小声で魔剣に答える。
「ああ……彼は純粋な魔族だよ。今は角や翼を隠しているみたいだけど、やっぱりアンには分かるんだ」
『直接打ち合えば、それは勿論。そして先ほどの会話から察するに、お二人は魔王軍が健在だった頃に知り合ったのですか?』
「……とある任務でね」
その任務の内容は、今でも鮮明に思い出すことができる。
魔王軍の仕事は、何も外敵から魔王領を守ることだけじゃない。
治安維持もまた、僕らの仕事だった。
魔王軍に在籍していたある日のこと、僕はとある任務を魔王様から仰せつかった。
それは当時多発していた、誘拐事件の解決だった。
一月で百名以上の人間や魔族が行方不明になり、一大事であると当時は大騒ぎになった事件である。
その後程なくして、僕やエイミーの配属されていた部隊は、遂にその首謀者がいると思われる根城に足を踏み入れた。
そして、そこで見たものとは……。
「……僕はその任務で、彼が攫った人間や魔族が儀式の生贄にされているところを目にした。……あの悲惨な光景は、今でも忘れられない」
しかもあの時のイグザリオンは、全身血まみれになりながらも真顔でかつ黙々と儀式を進めていた。
また、イグザリオンはあの時、命をただの「もの」として見ているような、目的のためにはどんな犠牲も厭わないような……そんな達観した顔つきをしていたのだ。
僕と歳は大して変わらないだろうに、一体どういう生き方をしてきたらあんな表情をすることができるのだろうかと、どこか恐ろしくなったのを今でもよく覚えている。
……もっとも、いざ儀式を止めようとしてそこから戦闘に移ったら、さっきみたいな口調で話し出したからそれはそれでびっくりしたんだけど。
『ちなみに……彼は一体、どのような儀式を進めていたのですか?』
魔剣の質問に答えようとすると、聞き耳を立てていたらしいイグザリオンは「まぁ待てよ」と僕を止めた。
「それは俺から言わせてもらうぜ。ぶっちゃけ、そこに転がっているジジイと手を組むふりをしたのは、あの時お前に邪魔された儀式をもう一回やるためだからな」
「……やっぱり、君の狙いは今でも」
イグザリオンは両手を広げ、演劇に出てくる役者のように語り出す。
「ああ、そうだよ。俺が行いたい儀式は後にも先にもただ一つ。……死んだアイツを蘇らせるための返魂術。俗に言う、死者蘇生ってやつだ!」
『なっ……!? そんなもの、できっこありません。あらゆる魔法に精通する魔剣の私が、それだけは保証します。だから、そんな愚かなことは……!』
魔剣は必死にイグザリオンを止めようとするが、それには当然訳がある。
死者蘇生。
それは古今東西あらゆる場所で試されている魔法を超えた奇跡にして、その失敗によってあらゆる災厄をもたらした禁術でもある。
無関係な人間の
だからこそ、魔剣はイグザリオンをこうして止めようとしているのだ。
……だが。
「おっと、そーんな説教されたって無駄だぜ? ……この俺がその試行錯誤の末に、一体何人殺してきたと思っているんだよ? だからよ……もうどんな犠牲が出ようと! どんな代償を払おうと! ……知ったことではないのさ」
イグザリオンの爛々とギラつく危なげな双眸は、もう何がなんでも目的のために突き進むと、口以上に語っていた。
「……でも、死者の蘇生は不可能だと、現実的ではないと君自身があの時一番よく分かった筈だ。百二人分の魂を使っても君の目的は達成されなかった、そうだろう!」
僕もまたあの事件を止めた経験から、死者蘇生は不可能だと悟った身だ。
そしてそれは、死者蘇生に失敗したイグザリオン自身が誰よりも分かっている筈なのだ。
……するとイグザリオンは、少し固まった後で腹を抱えて笑いだした。
「おいおい、分かっているようで分かっちゃいねぇなぁ! 鈍いぜフリーデン! 百二人じゃ足りないから……こうして神樹の魔力をかき集めに来ている訳だろうが」
そこまで聞いて、僕ははたと閃いた。
「……! いや、まさか!?」
「そのまさかだな! そもそも神樹を復活させるって計画は、最初からこの俺が乗っ取るために仕組まれたようなものなんだよ!」
──ヴォルザークと手を組むふりをしたっていうのは、そういうことか!
これでイグザリオンがこの場にいることに、辻褄があった。
ここにある完成度の高い祭壇を使えば、おおよその儀式を成立させることは可能だろう。
それに膨大な神樹の魔力を、ユノを生贄にした儀式で一点に集約して死者蘇生を行えば……あるいは、もしかしたら。
神樹の魔力が並外れた質と無尽蔵に思える量なだけに、成功する可能性は「当然限りなくゼロに近い」と言えても「ゼロではないかもしれない」と僕ですら一瞬だけ思えてしまったところが、イグザリオンの語る計画の嫌なところだ。
ともかくイグザリオンの狙いは最初から、神樹の魔力を使って死者蘇生の儀式を行うことにあったのだ。
……当然、隙を狙ってヴォルザークを排除した後に。
ある意味イグザリオンの計画に与してしまったのかと思うと、正直頭が痛くなる思いではある。
「……それと『最初から乗っ取るために仕組まれた』……か。その最初っていうのは、もしかしてエルフの過激派が人間と戦おうと決意した辺りからかい?」
自分に都合のいい状況を作り出すべく、用意周到なイグザリオンならそれくらいから仕組むだろう。
半ば確信めいた感覚を持ちながら問いかければ「ご明察」とイグザリオンは親指を立てた。
「いやー、な。死者蘇生をしようにも、人間や魔族の魂が百と少しくらいじゃ役者不足だってなると……やっぱり神樹とか竜種とか、そういうとんでもない存在の魔力を使うしかねぇかなって思ったんだよ。そこで人間への恨みが分かりやすく募っていたエルフ達を利用させてもらったって訳。まぁ、つってもあれだけ憤っていた様子じゃあ、俺が適当に炊きつけなくてもそのうち人間に対して開戦していたような気もするけどな」
そうして、イグザリオンは「さて」と真・準聖剣の剣先をこちらへと向けてくる。
「つー訳で、俺の狙いはお前が守る生贄だ。だから俺はこれからお前をぶっ殺して、生贄を頂こうと思うんだが……無駄話もこれくらいにして、もう本格的に始めようぜ? 元SSSランク討伐対象、赫々極砕の英雄! ……といっても、お前はもう時間切れみたいだけどな」
「……くっ!」
イグザリオンがそう告げた瞬間、僕の体を覆っていた結晶体が破砕音を立てながら崩壊を始めた。