第122話 乙女心 ~好きの先へ~  Bパート

文字数 8,116文字


 今日は教頭先生からの課題でもある“雨降って地固まる”の話もしないといけないはずなのに、私が内心で色々複雑な気持ちを持ちながら自転車置き場まで行くと、後輩二人がすでに待っていてくれた。
 私たちも遅れていた分、駆け寄って合流すると、
「愛先輩たち遅かったみたいですけど、何かあったんですか?――それに蒼先輩も暑くないですか?」
 空かさず中条さんが蒼ちゃんと反対側の私の隣に並んで、やっぱり感じたであろう夏にもかかわらず長袖のブラウスを身に着けた蒼ちゃんに純粋な質問をぶつける。
「日焼けするとすぐに肌が焼けてしまうから」
 でも用意していたのか、スラスラと私ですら聞いた事の無い理由を口にする蒼ちゃん。
「まあ、蒼先輩くらいの美人ならそう言う所にも気を遣うんですね」
 中条さんが軽く納得したところで、そのままサラッと答えて流そうとする。
「ごめんね。特に何かあった訳じゃ『さっきまで空木君が一年の子から告白を受けていたんだけど、それに愛ちゃんもついて待ってたんだよ』――いや待って? 私、途中でとどまったよ?」
「……どういうことですか?」
 後輩二人の反応を耳にして、何となく全て喋るハメになりそうな雰囲気を感じる。
「今朝待ち合わせ場所に、優希君の事が好きな一年女子がいて、放課後一番で優希君に告白したんだよ」
 私は諦めて初めから隠さずに話をしてしまう。今日は雪野さんの事と私の課題の話がしたいのだ。
「また副会長に別の女の影ですか?」
 優希君は断ってくれたのに、中条さんのイメージが良くない。
「いや優希君断ってくれたよ? だから私も悲しんだりとかは無いし」
 戸惑いながらも、私に対する気持ちとか私の事を思っての気遣いとかもたくさん見せてくれる優希君。
 あまりイメージが悪いのは寂しい。
「そうだね。愛ちゃんが空木君に何か恥ずかしい事をされて、逃げて蒼依のとこに抱き着いてきたもんねぇ」
「ちょっと蒼ちゃん?!」
 それを言われたら今日の私の先輩としての威厳が無くなると思うんだけれど。
「恥ずかしい事?! それってついにこの前のアレから一歩進んだって事ですか?!」
 彩風さんが正面から私に掴みかからんとするような勢いで喰いついて来る。
「……この前のアレって?」
 あの時は二年の教室で、そのやり取りを知らない蒼ちゃんが事の成り行きを気にし始める。
「先週の放課後にあーしらの教室に来て、副会長があわや愛先輩にっ!」
 全部を話す前に、興奮が最高潮に達したのか途中で言葉が止まる中条さん。
「……副会長の視線と言うか、その気持ちに愛先輩もどちらかというと乗り気だったみたいなんですけど……」
 結局どっちも最後まで言わずに私の方に視線を向けるだけの後輩二人。え……これって私が言わないといけない流れなのか。そんなの私の口からなんて恥ずかしすぎる。
「……大体何の事か予想は付いたけど、今日の感じだと違うよね」
 でもそこは長年の親友。私に羨望と言うか、寂しそうな嬉しそうな表情をしながら、私のちょっとした機微を分かってくれる蒼ちゃんが、その違いをしっかりと汲み取ってくれる。
「……」
 まあそれでも何かを言わないといけない空気までは変わっていないみたいだけれど。
「……抱いてもらった」
 結局三人の視線に観念して口を開くと、
「――?!?!」
 三人中二人が何か悲鳴めいた声を上げて私を取り囲む……のは良いけれど、この往来の道で他の通行者の妨げにならなければ良いんだけれど。
「抱いてもらったって……学校内で? 愛美先輩痛くないんですか?」
「副会長は鬼畜なのか! 愛先輩の初めてをそんなムードの欠片もないような欲望丸出しでっ!」
 私の心配なんてどこ吹く風やら、彩風さんと中条さんがそれぞれ優希君の悪口を好き好き言う。その中でも取り分け彩風さんの反応が早い。さっきのも含めて彩風さんも咲夜さん同様恋バナが好きなのかもしれない。
「? 痛くは無かったけれど、すごく温かくて安心できたって言うか、ずっとドキドキしっぱなしだったよ? それにムード云々って言うけれど、私の不安を消してはくれたし」
 まあ男の人の力できゅってされると痛い事もあるのかもしれない。思い出しただけでまた、私の顔と体が火照って来る。
 でも優希君の欲望って言うか、下心も最近隠さなくなって来ているから、私の顔と体の火照りも、優希君の前ほどまでにはならない。
「……彩ちゃん。愛ちゃんは恥ずかしがり屋さんなんだから、気付かなきゃ――愛ちゃんに確認なんだけど、抱いてもらったって……こう言う事なんだよね」
 そう言ってさっき教室でしてくれたように、優しく私の背中に手を回してくれる。いつもの蒼ちゃんの抱き心地だ。
「……」
 私たちを見た後輩二人が、口を開けたまま私たちを見ている。
「……うん」
 でもこれが優希君だと思うと、また心臓もドキドキして来る。
「彩ちゃん? 理っちゃん? 前にも言ったけど、愛ちゃんにそう言う事吹き込んだら駄目だよ」
 なのに私を置いてけぼりにして、三人で話を進めて行ってしまう。
「そう言う事って? 私何かおかしな事言っているの?」
「そんな事ないよ。ただ彩ちゃんと理っちゃんが早とちりをしたから注意してただけ。愛ちゃんは愛ちゃんらしくそのままでいてね」
 ただ聞いて、蒼ちゃんがただ答えただけ。それだけのはずなのに、蒼ちゃんの目を見ていると私の知らない何かのやり取りまで一緒にしたような気になる。それくらい蒼ちゃんの目が哀愁を帯びていた気がする。
「変な男からはあーしが守りますから、何かあったら頼って下さいね愛先輩!」
 そして何かを完結したのか、中条さんが再び私に腕を絡めて来る。
 結局、私にははっきりと事の詳細が分からないまま、以前の喫茶店へと急ぐ。


 結局その後も優希君とのアレコレを話す羽目になって、例の喫茶店についた時はいつも以上に私は疲れていた。
 でも女子と言うのはこういう時は無限の力を発揮するものらしい。店内に入り、私はココアパフェ・蒼ちゃんはケーキパフェ中条さんがケーキセットで、彩風さんがフルーツパフェ。見事に甘い物ばかりを並べてこれから女子会の本番が始まる。

 「あの後、雪野さんはどうだった? 大丈夫だった?」
 私は今日絶対にしておかないといけない話をしようと先に口火を切らせてもらう。
 蒼ちゃんからは何か言いたそうな視線を貰いはしたけれど、後輩二人が揃った今だからこそ出来る話はしておきたいのだ。
「どうもこうも、もう二年では誰も雪野の相手なんてしてませんって」
 だけれど無情にも中条さんがバッサリと言ってしまう。
「でも雪野さんは悪くない被害生徒だって事は、彩風さんからも連絡貰ったんだよね」
 中条さんへの連絡はしてくれていたはずだ。
「あーしもそれは聞きましたけど、先週の木曜日の昼休み、雪野が皆の前で謝るって言ったのに、今日の終業式の時も統括会のせいにして、逃げやがったじゃないですか。あの雪野の態度は何なんですか?」
 一度植え付けられた印象と言うのはそう簡単には変えられないのかもしれない。
「その事は統括会の中で、他のメンバーと一緒に、全校生徒の前で謝りたいって言う雪野さんを止めたんだよ――ね? 彩風さん」
「……そうですね」
 彩風さんもその事は認めたくは無いけれど、話したのは間違い無いから不承不承(ふしょうぶしょう)と言った体での返事をする。
 彩風さんは倉本君の事があるから中々納得出来ないのだろうけれど、本来極めて小さい雪野さんの過失に対して、個人で謝る必要性を全く感じないと私たちは判断した。こうしてしまえば雪野さんの過失じゃなくて、それを認めた私たち統括会全体の責任に本来はなるはずなのだ。
「なんでみんなして雪野に甘いんですか?! 大体知らなかったかなんかは知りませんけど、一人で騒いで周りを不愉快にさせて、挙げ句雪野の友達が暴力騒ぎで停学になったって言うじゃないですか。それで雪野に被害者面をされたってこっちは納得なんて出来ませんよ」
 でも人間の持つ特性って言って良いのかは分からないけれど、やっぱり悪い方へ目が行きがちになってしまう。
 中条さんの頭に昇った血を落とすためと言わんタイミングで、店員さんが頼んでいたパフェやケーキなどを持って来てくれる。

 そこで一呼吸おいてから、改めて話の続きをする事にする。
「だからアタシも言ったじゃないですか。みんな冬ちゃんに甘すぎるって」
 気持ちは分かるけれど、それじゃ駄目だよって前にも言ったのに。
「彩風さんの気持ちも分かるけれど、倉本君自身も注意付きではあったけれど、雪野さんを否定していなかったでしょ? 彩風さんは好きな人の応援・力にはならないの? 昨日は倉本君がこのまま言われっぱなしなのは嫌だって、協力するって言ってくれたんじゃないの?」
 彩風さんの性格上、やっぱり女の子の部分を刺激させてもらうのが一番効果的なのだ。
「確かにそう言いましたけど……」
 だけれど感情と気持ちが中々一致しないみたいだ。
「雪野さんの友達の暴力にしてもそうだけれど、雪野さん自身が何かをした訳じゃ無いよね? それは中条さんも雪野さん自身は暴力を振るうような人には見えないって言ってくれていたもんね。もし中条さんや彩風さんの友達が相手に暴力を振るったのを、あたかも自分がやったみたいに言われたら嫌な気持ちにならない?」
 倉本君も言ってくれていた通り、それがたとえ身内だったとしてもこっちに話が飛び火して来るのが、無い話では無いとは言え、辛いと思う。
「確かになりますけれど……」
 彩風さんに続いて中条さんも返事を渋る。
 二人とも理屈では分かってくれている。でも今までの雪野さんの印象が悪すぎるのか、感情の面で引っかかっている気がする。
「あの愛ちゃん。一つ聞きたいんだけど良いかな?」
 それまで静かに聞いていた蒼ちゃんが黙ってしまった二人の合間を縫って言葉を零す。
「もちろん良いけれど、どうしたの?」
「雪野さんって統括会で協力して守ろうとしてるんだよね? それって何から守ろうとしてるの?」
 何からって……
「学校からだよ」
 学校側にその気が無いとは言っても、今日の先生からの話次第では、雪野さん交代の補欠選挙みたいな事を学校側はしようとしているのだから。
「えっと……学校側から守るのに、彩ちゃんは分かるけど、蒼依や理っちゃんに雪野さんについての説得をするの?」
 ああ。そう言う事か。つまり学校側から出された私宛ての課題の事を、言わないといけないのか。
「そう言えば愛先輩。学校側に談判に行くとか言ってましたもんね」
 私の言っていた言葉を思い出したのか、彩風さんも乗って来る。
「……」
 その課題を言葉にするのは簡単だけれど、この二人を見ていると、言うは易く行うは難し。気が付いた時に頭を抱えたけれど、並の難易度でない事だけは一目瞭然だ。
「談判に関しては行く前に先生の方から9/1(火)に話をするって言われた。しかも今度は私一人で」
 だからって訳じゃ無いけれど、半分は様子見のつもりで彩風さんの質問に先に答える。
「先生から伝えられたって、それは清くん関係なしで愛先輩だけですか?」
 よっぽど昨日は酷いあしらわれ方をされたのか、交渉の話になるととても不満そうになる彩風さん。
「元々あの鼎談(ていだん)の時に出された私宛ての課題もあって、その答えの事もあるから昨日の話だけじゃないよ」
 彩風さんに自分で説明して違和感を覚える。
 私が貰った課題って何だろう。いや“雨降って地固まる”の事だって言うのは分かってはいるけれど、それは友達同士の喧嘩だったはずだ。でも目下迫っているのは雪野さんの事で……思い込んでいただけに頭が混乱する。
「それで蒼依の答えは?」
 ――岡本さんの事だから合っていても間違っていても答えは用意できていると思いますので、中学期の初日に養護教諭と一緒に話を伺います。ですから夏休みに統括会で相談するもよし、そのまま中学期に挑むもよしです――
 先生からの伝言からして、言う事自体には何の問題にもならなさそうだし、何となく反応は分かってしまってはいるけれど、言うだけは言ってみる。
「学校側から雪野さんを守るのに、同じ統括会メンバーである彩風さんと初めにトラブルがあった中条さんとの仲直りが『ごめんなさい愛先輩。いくら愛先輩のお願いでもこれだけ無実の罪で疑われ続けたあーしには無理です』――」
「……」
 最後まで言えなかった上、彩風さんに至っては視線まで外されてしまっている。
 予想は出来ていたけれど、正直堪えるものは大きい。
「ねぇ彩風さん。さっきまでは私の言う事に納得はしてくれていたんでしょ? それに友達の悪い話を聞かなくても良くなったら嬉しくない? それに彩風さんが倉本君のやる事に理解を示せば倉本君も喜んでくれるよ?」
 これは統括会内で決めた時に、彩風さんも一応は納得してくれたのだから決して強制では無いとは思うのだけれど……
「……今の時点で冬ちゃんの相手をしてる人はいないんですから、悪い話を聞く事なんて今じゃほとんどありません」
 なのに彩風さんの方に取り付く島が無い。
「ねえ愛ちゃん。愛ちゃんに聞きたいんだけど空木君は? さっきから会長さん会長さんって聞くけど空木君は?」
 何でか蒼ちゃんの言い方にトゲを感じる。でも私と優希君の考え方は当初から同じで、何回も途中で確認を取っている上、さっきの終業式の時を見ても分かる通り今更な話なのだ。
「私と優希君は雪野さんを絶対に一人にはしないって事でいつでも同じだよ」
 ただ雪野さんの孤独と、疎外感も分かると言い切ったその真意だけはちゃんと優希君に確かめたい。私が初めて好きになった人なんだから、特別一番に笑っていて欲しいに決まっている。
「そう言えばさっきも冬ちゃんと手を繋ぎながら、清くんを見てましたよね」
 私がさっきの優希君の匂いを思い出しかけていると、蒼ちゃんの前だって言うのに彩風さんが不満そうな声で、ギョッとする事を言い出す。
「ち、違うよ? 私、優希君が同じ行動をしてくれたから、嬉しくて優希君に笑顔を向けただけだよ?」
 まああの時、優珠希ちゃんの事とかで小さく頬を膨らませたんだけれど、まずは火消しをしないといけない。でないと帰り道はまた蒼ちゃんの説教に変わってしまう。
「その先にたまたま会長がいたと」
 私の後を中条さんが継ぐ。

「そう言えば彩風。あれから会長に素直になったか?」
 そう言えば彩風さんから倉本君にその気持ちに気付いて貰うために、出来るだけ素直になるって言う話をしたっけ。
「素直? アタシはいつだって清くんの話は素直に聞いてるって」
 頼んだパフェを平らげた辺りで話がまた変わったと感じる。でも小学生の時から片思いしている幼馴染。これも私たち女の子からしたら大切な話なのだ。
「愛先輩。今日の統括会と言うか打ち合わせの時はどうだったんですか?」
「落ち込んだ倉本君の側にずっとついててくれたり、彩風さんの存在感はちゃんとあったと思うよ」
「でも愛先輩が清くんの気持ちを次々と言い当てていくから、結局愛先輩とばかり嬉しそうに、楽しそうに喋ってた」
 私が口にした内容に不満があったのかすぐに訂正をする彩風さん。
「彩風の言いたい事も分かるけど、相手が恋愛マスターの愛先輩なんだから、よっぽど頑張らないと駄目なんだって」
「理っちゃんちょっと待って。空木くんをハラハラさせて、会長さんを本気にさせてしまってる愛ちゃんがマスターなんて甘いよ」
 よりにもよって彩風さんの前で言ってしまうから、また彩風さんから“ヤキモチ”を焼かれてしまう。
「む。その件についてはあーしも蒼先輩と話したかったんですよ」
 だけれど二人は私たちを置いて話し始めてしまう。
「大体愛ちゃんは自分で一人だけに好かれたら良いっていつも言ってるのに、周りに良い顔ばっかりするから、会長さんが愛ちゃんに本気になってしまったんだよ」
「何言ってるんですか? 女が愛想と愛嬌を振りまかないでどうするんですか?」
 いや蒼ちゃんが楽しそうに話しているのを見ているのはこっちも楽しいけれど、
「理っちゃんは愛ちゃんの真の可愛さを分かってない。愛ちゃんがあちこちで優しさをばらまく上に意地っ張りだからいつも空木君がハラハラしっぱなしなんだから」
「愛先輩の可愛さなら誰に言われるまでもなくあーしにも十分分かってます。まわりに寄って来るその悪い虫を追い払うのも彼氏の役割なんじゃないですか?」
 私をダシにして二人で睨み合うのは辞めて欲しい。さっきから私の正面に座ってくれた彩風さんの私を見る目がすごい事になっているんだってば。
「あの彩風さん? 私が優希君以外に興味が無い事は分かって貰えるよね?」
 昨日も優希君から私たちの事を言ってもらえたんだし。いやこれだと私から優希君じゃなくて、優希君から私になるのか。
「分からなくはないですけど、清くんの事、よく分かってますよね」
 いや分かっていると言うよりかは、雪野さんの事でどうするのかって意見が一致しているだけで、倉本君の事が分かっている訳じゃ無いんだけれど……。それに倉本君も私を美化してしまっている節も見受けられるし。
「彩風。愛先輩は恋愛マスターなんだから男共の気持ちも分かるんだって。だからあーしなら愛先輩にそもそも彼氏を合わせない」
 別に会いたいわけじゃ無いけれど、なんだか信用されていないみたいでショックだ。
「男の人の気持ちが分かって

愛ちゃんは、恋愛上級者止まりだって。空木君の不安を分かってない愛ちゃんに男子の気持ちなんて分かる訳ないよ」
 そして蒼ちゃんに至っては、私が気にしている優希君の気持ちが分かっていないと言う。
 そこを突かれると、さっきは体の外も内も優希君で満たされたはずなのに、その優希君の心の内が知りたくて、また声を聞きたくなってしまう。
 二人の会話で私が落ち込んでいると、突然彩風さんが口の中の空気を抜くように笑い始める。
「ちょっと二人があんまりな事言うから、愛先輩が落ち込んでますって」
 そんなの当たり前に決まっている。大好きな優希君の事を、親友である蒼ちゃんから分かってないなんて言われたら落ち込むに決まってる。
「もう。本当に愛ちゃんは乙女なんだから。さっきはちゃんと空木君が断ってくれたんでしょ?」
「うん。断ってくれた。その後私がワガママ言ったら優希君が私を抱きしめてくれた」
「――(はぁ)」
 私が今の不安な気持ちを出来るだけ分かって貰おうと、あの時の全体を優希君に包まれた感覚を思い出すも、あの時のような体全体を覆うような熱さはやっぱり感じない。今更ながらに心って本当に大切なんだなって思う。
「分かりました。元々愛先輩のお気持ちは分かっていますから、アタシがヤキモチを焼いていても仕方が無いですね」
「そこはあーしも同じ意見です。愛先輩は間違いなく乙女ですから、乙女の涙を流させた副会長の事はきっちりとあーしの記憶に残してますんで」
「……じゃあ。私と優希君の共通の想い。分かってくれる?」
 私は優希君と同じ思いである雪野さんの事を何とかして守りたいのだ。
 まだ私には理解できない優希君の心の内があったとしても、今分かっている優希君との共通の部分はやっぱり諦めたくはないのだ。
「分かりました。今日の事はあーしにも原因があるんでちょっと考えさせてください」
「アタシも清くんとちゃんと話し合ってみますから、愛先輩も元気出してください」
 私の気持ちが少しは通じたのか、多少は前向きに考えてもらえそうだ。
「二人ともありがとう。私のワガママかもしれないけれどお願いね」
「……(はぁ)」
 だったら感謝の前払いでもして二人には笑顔を向ける。
「……」
 のを、やっぱり蒼ちゃんはうらやましそうに、自分だけは仲間外れのような表情で私たちを見ていた。
 そしてあまり長居をしても悪いからと、後輩二人と、私たち二人は次回8月3日に顔を合わせる約束をして帰路に就く。

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