十七、

文字数 727文字

十七、
 とうとう私はその愛の残酷さを目の前に突き付けられることとなった。塔での我々の逢瀬と接触を盗み見した生徒がいるというのだ。随分前の話に思ったが、あれよりまだ一月も経っていなかった。それを明かした張本人が誰かまでは判明しなかったが、私にはどうしてか確信があった。猫の髪飾りが塔の頂上から落下していく光景が私の脳裏に焼き付いた。
 例の恋文破損事件以来、兼ねてより噂されていた私たちの「そういう」関係についての疑惑は、今や確信めいた情報として人々の間に知れ渡った。貴族の出の多い士官学校生にとって近親婚は、それほど縁遠いものではない。血の繋がりの近い者同士で結婚して子を産むなど、茶飯事とは言えないまでも少なからずあることだった。しかしそれはあくまで家の財産や所領を分散させぬための奇策めいた戦略であって、断じて近親間の恋愛を助長するものではない。そこにあって我々の純粋なる姉弟恋愛は生徒たちの目からもどうしても異質なものと映ったようで、擁護する声が非難のそれを上回ることは決してなかった。
 もはや往来で堂々と弟と接触することすら憚られた。何しろただ一緒に居るだけで、まるで汚らわしいものでも見ているような侮蔑の目がこちらへ寄せられるのだ。正面切って罵られることは殆どなかったものの、衆人が私たちへ向ける目は人道を外れた獣へのそれに極めて近かった。もっとも実際に倫理に外れていることをしているのだから、謂れなき誹謗と反論することもできない。寮に戻るまで私たちは、まるで罪人のような心持で日々を過ごさねばならなかった。
 当然、そういった風評がその親御の元へ運ばれない道理はない。ある日騎士団長の部屋へ呼び出された我々は、そこで顔を真っ赤にした父と対面した。
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