二、

文字数 1,205文字

二、
 元聖堂騎士団長である父の復職に乗じる形での就任。しかも双子の姉弟が二人同時に、という異例の采配により私たちは、教師らの中でも特に注目を集めていた。
 就任についての仔細は省くが、聖堂の騎士団長と生まれ故郷である村の傭兵団長、いずれもこなした父の教えを幼少時より賜った我々の出自は、王侯貴族の嫡子が顔を連ねる士官学校においてもさぞかし奇異に映ったことだろう。
 生徒たちとそう変わらない年齢にも関わらず、二人共々傭兵上がりで戦闘経験は豊富。父と肩を並べるほどの剣の腕前に、実戦経験からくる的確な兵法の指南、生徒個人の性質を鑑みた柔軟な教育。教師としての責務は期待以上に果たせていたはずだ。
 自分の口から言うのは少々憚られるが、容姿も異性の生徒らに色めいた世間話をさせるくらいには整っていることもあり、人気もそれなりにあったと思われる。少なくとも弟に思いを寄せる女生徒の姿を見かけたことがあるのだから、彼についてはお墨がついている。彼と同じ灰色の髪をした私がひょっと道角に顔を出すと、女生徒が見間違えて頬を染めるのだ。やがて私と気づいてなんだかばつの悪い顔をする。なんだか微笑ましいような鬱陶しいような、複雑な気分だった。また彼は恋文を頻繁に貰っていた。それも女ばかりか男からも貰っているようだから随分人気があると思った。それ程彼は周囲からも魅力的な人物に映っていた。
 一方私の評価は弟に比べると少し劣るかもしれない。時折対面で熱っぽい口説き文句が私へ向けられたが、他方で恋文らしきものはほとんど貰わなかった。一見固い用事の書簡かと思えばその実……、というような巧妙な偽装を施したものの外に、愛を語った文面はしばらく目にしない。食事や街への逢引きのお誘いも幾らかはあったが、恋慕の思いを打ち明けられたことは終ぞなかった。
 だが後になって思えば、それも弟がいる故だったのかもしれない。私たちは常日頃と言うほどではないが、頻繁に行動を共にしていた。教鞭を振るった日も、訓練のために野外へ出かけた日も、休みの日も、暇さえあれば二人で意見を交わしながら日常を過ごした。
 それはここに来る以前、傭兵稼業を営んでいた日々から継いだだけの習慣に過ぎなかった。元より二人で行動するのが常だったのだから同じ施設に居ればわざわざ離れる道理もなかった。血生臭い傭兵稼業であれ平和惚けした教職であれ、二人で分担してこなす方がずっと楽で、実際にそれは効率的だった。
 しかしそれこそが他の者からすれば快くない関係だったのだろう。私に言い寄る男は皆、背後にある弟の影を見てその食指を引き込んだ。弟に恋文を宛てる女生徒は、弟が私の話題を頻繁に出す姿を見てとうとうそれを闇に葬った。己より遥かに親密な同性の匂いに、無意識からかたじろいでしまうのだろう。そして私たちはその姉弟というには近すぎる距離に、とうとう手遅れになるまで気づくことはなかった。
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