二十七、

文字数 828文字

二十七、
 弟の代役を決めるにあたって、私のような若い者も含めた全教師を集めて会議することとなった。多角的な視点で検分するのが公平さをより高めるのだそうだ。今の所候補の教師には二人の人物が挙がっていた。いずれも教師の職務を果たすに足るだけの能力はあったが、より場数の踏んだ方を採用しようかという流れになった。そこで私は異を唱えて、もう少し様子を見たいと発言した。「新進気鋭たる若者の勢力をもってすれば、生徒への入魂にもさぞ力の入ることであろう」……云々ともっともらしい理屈をつけた。既に立場の危うい私の意見にも、似たような年齢をした幾人かは賛成してくれた。すると例の老教師が「それなら二人ともひとまず実習させてみて、その成果や評判を鑑みて判断するが適当かと思います」と言った。他の年季の入った教師もこれに反対しなかった。そういう訳でしばらくの間、定例より一人多い人数が教職に就くこととなった。これならば急遽もう一人欠けることになってもすぐに補填が利くだろう。私は胸を撫で下ろした。老教師の方を見やると、いつか見たようなウインクがさりげなくこちらに向けられた。
 私と弟はその新任の教師に宛てて長い手紙を書いた。それは大抵の内容が教えるべき科目の注意であるとか、生徒たちの好き嫌いであるとかいった我々から受け継がれるべきものを記していた。その他に家具や私物の始末の付け方を寮の長に向けて書いた。そうして後の事を任せる文ばかり書いていると、なんだか心中前の遺書をしたためている様な気分になった。それを言うと弟は縁起でもないと少し嫌な顔をした。私は「それだったら、父さんに書くものは後に回しましょうか」と言った。手紙を遺していくのは死にゆく者でも出来るが、落ち着いてから手紙を寄越すのは生者にしか出来ない。そうすれば二人は父に手紙を書くまで心残りで死ねないだろう。また向こうも別れの挨拶を受け取らないので幾分不安がらないで済むだろう、と。弟はそれに納得して微笑んだ。
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