二十八、

文字数 402文字

二十八、
 出立の前日、二人はもう一度例の塔へ足を運んだ。あの時願った想いは通じた。二人を縒り合わせてくれたこの場所に感謝の気持ちを述べに来たのだ。祈りの中で、遠く鐘の音が聞こえた。ここの聖堂からではない、もっと遠くの村か教会の鐘の音が聞こえるほどに塔の中は静寂だった。
「後悔はないかい、姉さん」
 祈りを終えて、弟はそう言った。私はその言葉に応える代わりに彼の手を握った。そうしてその暖かな手を、自分の胸に押し当ててこう訊き返した。
「私の心がなんて言ってるか、当ててみて」
 弟は触れる柔らかさに一瞬表情を固くしたが、私の言葉を聞いてすぐに真剣な顔をして目を閉じた。やがてその閉じた瞼が開かれた時、私は私の心のすべてが彼に届いたことを知った。
 私たちはもう悔やまない。恐れない。この繋がる心の温もりがある限り、決して離れない。女神に繋げられた二人は、もう何ものにも引き裂かれることはないだろうと確信していた。
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