二、
文字数 1,341文字
二、
「久しぶり、父さん。堅苦しい挨拶なんぞは好かないだろうから、簡単に伝えてしまうよ。もし二人のことを思い出したくもないというのなら、すぐに捨ててしまって構わない。だがもし黙って出て行った子供を許してくれるのなら、その近況を聞いて欲しい。
詳しい場所は言えないが、二人は田舎の農村の近くに家を建てて暮らしている。基本は狩りをして生計を立てているが、たまに頼まれた時に村の警護や獣退治をしている。二人とも腕が確かなので重宝されてありがたい。父さんの教育の賜物だ。後は村の子供にせがまれて読み書きも教えている。学校で教師をやっておいて良かったと思うよ。そこの子と違って幾分野性的なので苦労はするが、みんな性根の良い子たちばかりだ。
二人は間違いなく幸せで居られている。父さんには申し訳なく思うが、生まれてより一番幸せに感じている。もっとも父さんは俺たちに幸せになれと言ってくれたのだから、そうでない方が怒るだろうな。ここには俺らを責める人間がいない。基本的に隠れているから人目に付きにくいのと、また村民もそういう事情にあまり抵抗がないおかげだろう。だから父さんとの約束通り、俺たちは間違いなく幸福で居られている。そこは安心して欲しい。
ただ謝らなければならないのは、孫の顔を見せられないことだ。医者や学士によれば一代だけなら姉弟同士でも他人と作るのとそう変わらないそうだが、立場が悪いので踏ん切りが付かないでいる。同じ理由で養子も取れない。きっとこの家は俺たちの代で終わるだろう。本当にすまない。ただ、先の子供たちがしょっちゅう構ってくれるので寂しい思いはしていない。もし子供ができたらこんな風なんだろうな、と姉さんは事あるごとに口にしているよ。
なあ、父さん。父さんは俺たちを嫌っているだろうか。人らしくないままに生まれて育って、大人になって親不孝な逃避行を演じてしまった。普通は忌み嫌って然るべきだと思う。そうなって仕方ないと二人とも受け入れている。ただもし、あの時俺たちを見送ってくれたように、父さんの中で二人を愛する気持ちが嫌うそれより勝っているのなら、もう一度会ってはくれないだろうか。その時はどれだけ叱ってくれても構わない。いくら殴ってくれても構わない。だからそうした後で、どうか家族として抱き締めてくれないだろうか。俺たちは他の何もかもを投げ打ってしまったけれど、やはりああして桃を贈ってくれた父さんは愛したいと思っている。もしこんな身勝手な気持ちでも受け入れてくれるなら、これ以上幸福なことはない。幸せになれという約束を、今以上に真に果たせるように思うんだ。
もちろん受け入れられない時は返事をしないでも構わない。金輪際忘れてくれてもいい。ただ、俺たちは何年でも待っている。父さんがそうしてくれたように、俺たちは何年でも何十年でも父さんを愛している。だから勘当の書面でもなんでも、父さんから何か返してくれれば嬉しく思う。
追伸 狩りをする他に、最近になってちょっとした作物もやるようになった。ようやくお裾分けできる程度のものが出来てきたから、もし迷惑でなければ送ろうと思う。売り物より出来は悪いかもしれないが、俺たち二人で作った野菜だ。もし食べてくれたらとても嬉しい。」
「久しぶり、父さん。堅苦しい挨拶なんぞは好かないだろうから、簡単に伝えてしまうよ。もし二人のことを思い出したくもないというのなら、すぐに捨ててしまって構わない。だがもし黙って出て行った子供を許してくれるのなら、その近況を聞いて欲しい。
詳しい場所は言えないが、二人は田舎の農村の近くに家を建てて暮らしている。基本は狩りをして生計を立てているが、たまに頼まれた時に村の警護や獣退治をしている。二人とも腕が確かなので重宝されてありがたい。父さんの教育の賜物だ。後は村の子供にせがまれて読み書きも教えている。学校で教師をやっておいて良かったと思うよ。そこの子と違って幾分野性的なので苦労はするが、みんな性根の良い子たちばかりだ。
二人は間違いなく幸せで居られている。父さんには申し訳なく思うが、生まれてより一番幸せに感じている。もっとも父さんは俺たちに幸せになれと言ってくれたのだから、そうでない方が怒るだろうな。ここには俺らを責める人間がいない。基本的に隠れているから人目に付きにくいのと、また村民もそういう事情にあまり抵抗がないおかげだろう。だから父さんとの約束通り、俺たちは間違いなく幸福で居られている。そこは安心して欲しい。
ただ謝らなければならないのは、孫の顔を見せられないことだ。医者や学士によれば一代だけなら姉弟同士でも他人と作るのとそう変わらないそうだが、立場が悪いので踏ん切りが付かないでいる。同じ理由で養子も取れない。きっとこの家は俺たちの代で終わるだろう。本当にすまない。ただ、先の子供たちがしょっちゅう構ってくれるので寂しい思いはしていない。もし子供ができたらこんな風なんだろうな、と姉さんは事あるごとに口にしているよ。
なあ、父さん。父さんは俺たちを嫌っているだろうか。人らしくないままに生まれて育って、大人になって親不孝な逃避行を演じてしまった。普通は忌み嫌って然るべきだと思う。そうなって仕方ないと二人とも受け入れている。ただもし、あの時俺たちを見送ってくれたように、父さんの中で二人を愛する気持ちが嫌うそれより勝っているのなら、もう一度会ってはくれないだろうか。その時はどれだけ叱ってくれても構わない。いくら殴ってくれても構わない。だからそうした後で、どうか家族として抱き締めてくれないだろうか。俺たちは他の何もかもを投げ打ってしまったけれど、やはりああして桃を贈ってくれた父さんは愛したいと思っている。もしこんな身勝手な気持ちでも受け入れてくれるなら、これ以上幸福なことはない。幸せになれという約束を、今以上に真に果たせるように思うんだ。
もちろん受け入れられない時は返事をしないでも構わない。金輪際忘れてくれてもいい。ただ、俺たちは何年でも待っている。父さんがそうしてくれたように、俺たちは何年でも何十年でも父さんを愛している。だから勘当の書面でもなんでも、父さんから何か返してくれれば嬉しく思う。
追伸 狩りをする他に、最近になってちょっとした作物もやるようになった。ようやくお裾分けできる程度のものが出来てきたから、もし迷惑でなければ送ろうと思う。売り物より出来は悪いかもしれないが、俺たち二人で作った野菜だ。もし食べてくれたらとても嬉しい。」