第13話 宮本浩次~ROMANCEから昭和歌謡曲を語る4~

文字数 2,325文字

 みなさんこんにちは。こちらは宮本浩次・エレカシさんと同学年の私が、50過ぎるまで見事なまでにエレカシの楽曲と接触せず、ようやく2020年に沼った経緯を書いてきているのですが、第10話から週間売上げ1位を獲得した素晴らしいアルバム【ROMANCE】から昭和歌謡曲を語る番外編をお送りしています。あの頃、私も子供でした。

●木綿のハンカチーフ/太田裕美(1975年/作詞 松本隆・作曲 筒美京平)
 宮本浩次さん(以下宮次)当時9歳。岩崎宏美さんのロマンスと同じ年に発売されているようです。ただ、木綿のハンカチーフは12月の発売なので(ロマンスは7月)爆発的ヒットは1年ずれていたと思われます。

 携帯電話などなかった時代。遠距離恋愛で気持ちを伝える手段とは。

 電話でいいじゃないかと思われますが、当時の電話はプッシュホン。ダイヤル式の黒電話もまだ健在でした。
 これらの電話は受話器が異常に重い。その時代のドラマで役者さんが両手で持つのは重いからです。長時間持って話すのは腕がもちそうにありません。
 しかもコードでつながれているから移動ができない。会話が親兄弟に筒抜けである上に長電話になるので、電話代がかさむ、他の家族が使いたくても使えない。
 かの有名な【娘の電話が長い問題】です。誰がその電話代払っていると思っている。という全国のお父さんの泣き叫ぶ声がとどろいたほどでした。

 そのような時代背景からの【往復書簡】です。封をあけてクセのある文字を確認し、筆跡を指でなぞってみたりなんかする。なんてピュアな絵面なのだろう。
 都会に染まっていく彼氏と地元から離れられない彼女とのやりとり。
【二人はどうなるのだろうか】
 秒でメッセージを送れる現代では味わえないハラハラがありました。

 それにしても、半年も過ぎて往復書簡のみとは。なぜ彼氏も彼女も会いにいかなかったのだろうか。その辺の事情も想像すると奥が深くなっていくドラマが出来上がりそうです。

●喝采/ちあきなおみ(1972年/作詞 吉田旺・作曲 中村泰士)
 宮次6歳。【二人でお酒を】同様、自分が親しんだというよりは母親世代が好きだった楽曲だろう。

 本人が歌っているところを見た記憶がない。どうしても物真似タレントの【コロッケ】さんが浮かんでしまうのだが、コロッケの物真似も似ているのかどうかよくわからない。
 それでもこの曲は脳内に刷り込まれている。「いつものように幕が開き」「あれは3年前」という部分は喝采を話題に話すとき必ず出てくるキーワードだ。

 この歌のタイトルが【喝采】なのが長編小説のタイトルのようで、実際頭の中で物語が広がります。

 主人公は自立心ある芯の強い人。恋人より歌を選んだ。1970年代女性が夢を追いかけるのは今の何倍もの後戻りできない感があっただろう。
 止める彼氏の手を振りほどいて夢を選んだ彼女の決意は歌の中で見事に表現されている。

 主人公は彼の葬式(彼の死因も子供心に気になって、あれやこれやといまだに想像し続けています。病気なら心の準備はできていただろうけど、突然の事故死だったら、とかです)に出ることができた。皮肉にも一連の儀式の間に自分の歌が聞こえてくる。本来なら動けなくなるほどの事態が発生するのだが、ここで崩れたら彼を置いて歌を選んだ自分の生きざまが否定されてしまう。このあたりがツボだなと思わずにはいられない。

 彼女は泣いていない。その足でホールに向かい、恋の歌を歌う。
 そんな事情を知りもしない観客は彼女の歌に酔いしれるという壮大なドラマ。
【喝采】という楽曲を耳にした者だけが、語られることのない彼女の強さに涙腺を崩壊させることを許される。

 などと、いいこと言っておきながら頭の中ではコロッケが物真似しているわけです。

●ジョニィへの伝言/ペドロ&カプリシャス(1973年/作詞 阿久悠・作曲 都倉俊一)
 宮次7歳。こちらの楽曲も母親世代よりだ。
 本人たちが演奏している映像を見た記憶がない。しかし、歌は刷り込まれている。歌謡曲マジックだ。いつ、どこで受信したのかまるで覚えていないのに口ずさむことができるというのは、宇宙人に拉致でもされて脳内にスピーカーを植えつけられたからじゃなかろうか。

 この楽曲を認識したのがいくつのときかわからないのだが、子供心に思ったことがあって、それはいまだに頭を悩ませる。

【伝言が長すぎて覚えられない】

 私の中での舞台はカウンターしかないバーで、女性とジョニィは店の常連だった。
おそらく伝言を頼まれているのはマスターだ。ふたりをよく知る唯一の人物。
【長すぎて覚えられないから「わりと元気よく出て行ったよ」でいいや】
 と薄情な人間だったらそれで済ますだろう。実際、そんな細かく伝える必要のある情報なのか。

 しかし、スーツケース一つ持って現れた女性を一目見て事情を呑み込んだマスターは、伝言の内容とは反比例した彼女の、今にも泣きそうで、グラスを持つ手が震えているのを見ていて、【これは、全力で伝言を記憶しなくてはいけない】と思う。

 彼女の語りという楽曲だが、【2時間待っていたあたしがこの町に居たことをどうか忘れないで欲しい】という、この町とジョニイに対しての遺言ともいえる伝言を「わりと元気よく出て行った」という言葉ひとつで片づけていいのだろうか。町を去る決意とジョニィを失う悲しみを全身全霊で受け止めて伝えなくてはならない。

【友だちなら、そこのところうまく伝えて】

 自分だったら、ジョニィになんと伝えるだろうか。
 バスの時間が来て、出ていく彼女の背中に何を思うだろう。
 責任重大だ。

~ROMANCEチャート1位おめでとうございます。続く~
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