第19話
文字数 4,504文字
「どれにするん?」
「ん~~ 君は、何 がいいと?」
「僕は……これかな♪」
「アニメかぁ。しかも異世界……」
「君は、ハーレム願望があるとね?」
「え!? そういうものなの!?」
肌に切り裂くような冷たさを感じる十二月。
冬休みへと突入した私達は今日、キャナルシティというモールに遊びに来ていた。
その理由は、「映画が観たい!」という彼の一言と、「クリスマスイブのカップルを目で殺す♬」という、弥生の徒 ならぬ殺意からだった(汗)。
そして今は、ユナイテッドシネマの中でどれを観ようか思案中。
「これなんか良いっちゃないと?」
「あ!よかね♬」
「恋愛ものかぁ……」
彼が今いち乗り気じゃないふうに、抜けた声を出す。
と、そこへ――「よぉ!」
私達は野太い声がした方へと一斉に振り向く。
「先輩!?」
見るとそこには、私服姿の小永吉先輩が仁王立ちしていた。
「奇遇やね。お前らも観に来たとか?」
「先輩は……一人で観に来たんですか?」
先輩の周りのスカスカな空間を彼が確認する。
「ああ。休みの日は、よく一人で観に来るとぞ……で、やっぱりアニメか!? それも異世界かっ!?」
「まだ決めてませんが、甘露寺くんは観たかようです」
私は手の平を開いて彼を指し示した。
「そうね! じゃ、俺と一緒に観たらよか!」
「え!? ちょ!? わ――!?」
そういって、先輩はアタフタする彼を強引に連れ去ってしまった。
「じゃあ 栞、私達はこっちにしよ♬」
「そうやね。終わる時間もだいたい一緒やから、ちょうどよかね♪」
――そうして私達が観た映画は、涙なしには語れないものだった。
それは彼が事故に遭い、彼女のことだけが記憶から無くなっていて、どこの誰だか分からなくなってしまったところから物語は始まる。
そして、実は彼女も彼と一緒に事故に遭っていて、この時すでに亡くなっていたのだ……。
けれど彼への強い想いから、その姿を彼だけが見ることのできる唯一の存在となっていた。
そして一時は、「このままでいいから、彼の傍にいたい」と、そう願っていた彼女だったけれど、やがてその気持ちに変化が訪れ、【彼の傍にいる私】ではなく、【彼の中の私】という想いに変わり、自分の記憶を与えることによって彼が記憶を取り戻す代償として、自身の記憶と存在する力が失われていくということを突き止めて、彼女は迷いながらもその記憶を彼に与え続ける。
そうして彼女は記憶も存在する力も尽き果てていき、やがて最期の時、「忘れないでね――」と、二人にとって一番大切な思い出を彼に託して、彼女は眩い光に包まれながら、涙ながらにも幸せな表情で消滅するのだった。
「おー、遅かったな。どげんやった?」
目を腫らしながら、夢遊病にでも罹ったかのような私達を見つけて、先輩が手を振り苦笑いしながら声を掛ける。
「先輩、暫く喋らんでください……」
弥生が遠くを見つめて告げる。
「折角の余韻が、ぶち壊しにならんごと……」
私も追討ちを掛けた。
「相変わらず失礼なヤツらやな~(汗)」という先輩のしかめっ面を他所に、私達が現実世界に戻ってくるまでの時間をかなり要したあと、「で、君はどうやった? 面白かったと?」と、彼も映画を観ていたことを思い出して問い掛けた。
「うん! 先輩がライトノベルについて詳しく教えてくれて、凄く勉強になったよ!」
「甘露寺。ライトノベルの世界は、奥が深かぞ……貴様にその茨の道が歩めるか!?」
「はい! 先輩!!」
どうしてそうなったのかと疑問に思いながらも、敢えて触れないことにした(汗)。
そして他の話題をしていたところ、文化祭の時にあった等身大フィギュアの製作者が、先輩であるということが判明した。
「……」
私達は先輩の意外な芸術の才能に、褒めるよりも先にポカンとなってしまった――。
「栞、これからどげんする?」
「そうやね。丁度いい時間やし、晩御飯にする?」
「なら、俺も一緒に行くばい」
そうして私達はモールの中にある、レストラン街へと場所を移す――
「とんこつラーメン」
挙手二名。
「パスタ」
挙手二名。
私達は地下一階の水の流れる空間を通り、移動中、人だかりの中心にいた女性アーティストのオリジナル曲に足を留め、その歌声に聴き入り拍手を送ったあと、飲食店の案内板を前に、意見が真っ二つに別れていた。
「じゃあ、食べ終わったら連絡ね♬」
「わかった!」
「古賀原はよせんか!」
「……先輩。女の子ばエスコートできんと、モテませんよ!?」
「なんいいよっとか!? そげなことはよか女になってから言わんかっ!?」
「もうなっとうのが分からん先輩は……老眼 で・す・かっ!?」
「せからしかたい! 大体お前らは――」
騒々しいというのは、ああいうことをいうのだろう(汗)。
「じゃあ、私達も行こう!」
「うん♪」
そして私達はイタリアンへと向かい、そこで胃袋からハラスメントと訴えられるくらいにまでお腹を膨らませる。
「――食べたぁ! 全然パスタだけじゃなかったね(笑)」
「でも美味しかったけん、いいっちゃないと?(笑)」
シーザーサラダにコーンスープ。
明太子カルボナーラと四種のチーズピザに海老とマッシュルームのアヒージョ。
それから茄子のミートソースドリアをご満悦の表情で平らげた。
食べ終わってから気が付いたのだけれど、一人前ずつにして、品数多く色んな味を楽しんだ方が良かったんじゃないかと思ったりもした(照)。
「デザート、なんにするん?」
「まだ食べられるの?(汗)」
私はメニュー表から目を外し、彼に「当然」と答える。
そしてケーキセットにしようかと考えを巡らせていると、ウエイターさんがスッと近づき言葉を掛けてくれた。
「お客様、本日カップル様限定のパフェがお勧めとなっておりますが、いかがでしょうか?」
「でも、僕達……」
彼が右手をそっと持ち上げて、ウエイターさんに違うと告げようとする。
「――付き合ってます」
「!?」
私は彼の言葉を遮り、ウエイターさんの次の言葉を待つ。
「でしたら是非、ご賞味ください」
「お願いします」
ウエイターさんは柔らかい微笑みと一緒に、食べ終わったテーブルのお皿を流れるような身のこなしで片付けてくれた。
そしてウエイターさんが立ち去ったあと、彼が待ち兼ねたように短い言葉を口にする。
「あの、僕達……」
「君が【彼氏】って、言ったっちゃないね」
「あれはだって……」
「デザートの為なんやけん、よかろうもん」
「でも、ウソつくのは良くないと思うよ?」
「君だって、あの時ウソついたやないね」
「……」
「……本当にすればよかやん」
「え!?」
「ウソつくのは良くないっちゃろ? そもそもウソついたんは、誰ね?」
「いやぁ、まぁ、それはそうなんだけど……」
「男に二言はなかろうもん」
「でも……」
「なん? 私じゃ不満ね?」
「!? いや、決してそういう意味じゃ……」
「じゃ、なんも問題ないやん」
私はこの時、春日公園での彼と弥生のやり取りを思い出していた。
彼には足枷なんて作って欲しくない。
それに、弥生のあの凛とした後ろ姿も大切にしたい。
何より、自分の気持ちをちゃんと知りたい……。
そんな思いを詰めた言葉を彼に送った。
「……」
傍から見れば、まるで私にお説教されているような姿で、小さくまるまった彼がじっと俯く。
「――お待たせ致しました」
そしてそんな彼を助けるかのように、ウエイターさんがパフェを一つ、さり気なく運んで来てくれた。
「ごゆっくりお召し上がりくださいませ。尚、コースターに描かれたことをして頂けますと、半額とさせて頂いております」
ウエイターさんの軽やかなお辞儀につられ、私達も深々と頭を下げてから、まず目の前に置かれた大きなパフェに目をやる。
すると彼が急に顔を赤くした。
「どげんしたと?」
「ん?……いや、別に……」
彼がパフェから視線を逸らし、もごもごと口を動かす。
「……これ、なんて書いてあるん?」
彼が、『やっぱりキターーッ!!』という表情をした(汗)。
「……あ、愛してる」
「!?」
パフェの中段を締めるバニラアイスの部分に、〔Ti amo〕とストロベリーソースで書かれてあり、一番上には、四角いチョコレートケーキが乗っていて、その上にちょこんとサンタクロースがウインクして座っていた。
「ふ……ふぅん……」
私は話題を変えようと、軽くパフェを持ち上げコースターを覗き見てみた。
「!?」
するとそこに描かれていたのは、「愛を込めて……」というメッセージと共に、女性のシルエットが男性シルエットの口元へスプーンを運び、パフェを食べさせてあげている絵だった。
「……」
彼もそれを直視して、俯き黙り込む……。
「と、溶けてしまうやろ!?」
「そ!? そうだね!」
「ぃ、一応……従わんと。半額やしね……」
「ぅ……ぅん」
「……」
「……」
「――はい!」
「!?」
ピクリとも動かない彼に、私は、スプーンですくったTiまでの付いた部分を身を乗り出し口元へと運んだ。
そして彼が目を瞑り、意を決して口の中へとそれを迎え入れる――
彼が口にアイスを含む時のスプーンの軽い重さが、私の手に伝わってきた。
それはとても新鮮で、ほんの些細なことだったけれど、彼の為に何かをしてあげられたことに私はすごく嬉しくなって、高鳴る心臓を抑えきれずに役目を終えたその手が少し震えていた――
「……お、美味しい?」
「う、うん……♪」
そして次に彼が、「ね、念の為……」と言って、スプーンを手に取りamoを私にくれようとする。
「……」
私は逆らうことなく目を上へと吊り上げて、顎を軽く突き出し、それを口の中へと含んだ……。
眉間にツンとするものを感じながらも、甘く刺激的なそのアイスは、私の火照る体の所為で直ぐに溶けてしまった。
「美味しかね……」
そうして私達は、熱いものを食べているかのように、冷たいはずのそのパフェを共同作業のようにして黙々と頬張った――。
「お、お待たせ……」
二人と合流したものの、「ケンカでもしたとか?」という、小永吉先輩の不思議そうな顔と、弥生のニター♬という、崩れた笑顔を横目に、会話がちぐはぐになりながらも家路へと着き、彼と二人きりになったその帰り道、私達は言葉を交わすことはなかったけれど、キラキラとした素敵な空気に包まれながら、隣同士、肩が触れ合いそうになる距離で歩幅を合わせて一緒に帰っていった――。
「ん~~ 君は、
「僕は……これかな♪」
「アニメかぁ。しかも異世界……」
「君は、ハーレム願望があるとね?」
「え!? そういうものなの!?」
肌に切り裂くような冷たさを感じる十二月。
冬休みへと突入した私達は今日、キャナルシティというモールに遊びに来ていた。
その理由は、「映画が観たい!」という彼の一言と、「クリスマスイブのカップルを目で殺す♬」という、弥生の
そして今は、ユナイテッドシネマの中でどれを観ようか思案中。
「これなんか良いっちゃないと?」
「あ!よかね♬」
「恋愛ものかぁ……」
彼が今いち乗り気じゃないふうに、抜けた声を出す。
と、そこへ――「よぉ!」
私達は野太い声がした方へと一斉に振り向く。
「先輩!?」
見るとそこには、私服姿の小永吉先輩が仁王立ちしていた。
「奇遇やね。お前らも観に来たとか?」
「先輩は……一人で観に来たんですか?」
先輩の周りのスカスカな空間を彼が確認する。
「ああ。休みの日は、よく一人で観に来るとぞ……で、やっぱりアニメか!? それも異世界かっ!?」
「まだ決めてませんが、甘露寺くんは観たかようです」
私は手の平を開いて彼を指し示した。
「そうね! じゃ、俺と一緒に観たらよか!」
「え!? ちょ!? わ――!?」
そういって、先輩はアタフタする彼を強引に連れ去ってしまった。
「じゃあ 栞、私達はこっちにしよ♬」
「そうやね。終わる時間もだいたい一緒やから、ちょうどよかね♪」
――そうして私達が観た映画は、涙なしには語れないものだった。
それは彼が事故に遭い、彼女のことだけが記憶から無くなっていて、どこの誰だか分からなくなってしまったところから物語は始まる。
そして、実は彼女も彼と一緒に事故に遭っていて、この時すでに亡くなっていたのだ……。
けれど彼への強い想いから、その姿を彼だけが見ることのできる唯一の存在となっていた。
そして一時は、「このままでいいから、彼の傍にいたい」と、そう願っていた彼女だったけれど、やがてその気持ちに変化が訪れ、【彼の傍にいる私】ではなく、【彼の中の私】という想いに変わり、自分の記憶を与えることによって彼が記憶を取り戻す代償として、自身の記憶と存在する力が失われていくということを突き止めて、彼女は迷いながらもその記憶を彼に与え続ける。
そうして彼女は記憶も存在する力も尽き果てていき、やがて最期の時、「忘れないでね――」と、二人にとって一番大切な思い出を彼に託して、彼女は眩い光に包まれながら、涙ながらにも幸せな表情で消滅するのだった。
「おー、遅かったな。どげんやった?」
目を腫らしながら、夢遊病にでも罹ったかのような私達を見つけて、先輩が手を振り苦笑いしながら声を掛ける。
「先輩、暫く喋らんでください……」
弥生が遠くを見つめて告げる。
「折角の余韻が、ぶち壊しにならんごと……」
私も追討ちを掛けた。
「相変わらず失礼なヤツらやな~(汗)」という先輩のしかめっ面を他所に、私達が現実世界に戻ってくるまでの時間をかなり要したあと、「で、君はどうやった? 面白かったと?」と、彼も映画を観ていたことを思い出して問い掛けた。
「うん! 先輩がライトノベルについて詳しく教えてくれて、凄く勉強になったよ!」
「甘露寺。ライトノベルの世界は、奥が深かぞ……貴様にその茨の道が歩めるか!?」
「はい! 先輩!!」
どうしてそうなったのかと疑問に思いながらも、敢えて触れないことにした(汗)。
そして他の話題をしていたところ、文化祭の時にあった等身大フィギュアの製作者が、先輩であるということが判明した。
「……」
私達は先輩の意外な芸術の才能に、褒めるよりも先にポカンとなってしまった――。
「栞、これからどげんする?」
「そうやね。丁度いい時間やし、晩御飯にする?」
「なら、俺も一緒に行くばい」
そうして私達はモールの中にある、レストラン街へと場所を移す――
「とんこつラーメン」
挙手二名。
「パスタ」
挙手二名。
私達は地下一階の水の流れる空間を通り、移動中、人だかりの中心にいた女性アーティストのオリジナル曲に足を留め、その歌声に聴き入り拍手を送ったあと、飲食店の案内板を前に、意見が真っ二つに別れていた。
「じゃあ、食べ終わったら連絡ね♬」
「わかった!」
「古賀原はよせんか!」
「……先輩。女の子ばエスコートできんと、モテませんよ!?」
「なんいいよっとか!? そげなことはよか女になってから言わんかっ!?」
「もうなっとうのが分からん先輩は……老眼 で・す・かっ!?」
「せからしかたい! 大体お前らは――」
騒々しいというのは、ああいうことをいうのだろう(汗)。
「じゃあ、私達も行こう!」
「うん♪」
そして私達はイタリアンへと向かい、そこで胃袋からハラスメントと訴えられるくらいにまでお腹を膨らませる。
「――食べたぁ! 全然パスタだけじゃなかったね(笑)」
「でも美味しかったけん、いいっちゃないと?(笑)」
シーザーサラダにコーンスープ。
明太子カルボナーラと四種のチーズピザに海老とマッシュルームのアヒージョ。
それから茄子のミートソースドリアをご満悦の表情で平らげた。
食べ終わってから気が付いたのだけれど、一人前ずつにして、品数多く色んな味を楽しんだ方が良かったんじゃないかと思ったりもした(照)。
「デザート、なんにするん?」
「まだ食べられるの?(汗)」
私はメニュー表から目を外し、彼に「当然」と答える。
そしてケーキセットにしようかと考えを巡らせていると、ウエイターさんがスッと近づき言葉を掛けてくれた。
「お客様、本日カップル様限定のパフェがお勧めとなっておりますが、いかがでしょうか?」
「でも、僕達……」
彼が右手をそっと持ち上げて、ウエイターさんに違うと告げようとする。
「――付き合ってます」
「!?」
私は彼の言葉を遮り、ウエイターさんの次の言葉を待つ。
「でしたら是非、ご賞味ください」
「お願いします」
ウエイターさんは柔らかい微笑みと一緒に、食べ終わったテーブルのお皿を流れるような身のこなしで片付けてくれた。
そしてウエイターさんが立ち去ったあと、彼が待ち兼ねたように短い言葉を口にする。
「あの、僕達……」
「君が【彼氏】って、言ったっちゃないね」
「あれはだって……」
「デザートの為なんやけん、よかろうもん」
「でも、ウソつくのは良くないと思うよ?」
「君だって、あの時ウソついたやないね」
「……」
「……本当にすればよかやん」
「え!?」
「ウソつくのは良くないっちゃろ? そもそもウソついたんは、誰ね?」
「いやぁ、まぁ、それはそうなんだけど……」
「男に二言はなかろうもん」
「でも……」
「なん? 私じゃ不満ね?」
「!? いや、決してそういう意味じゃ……」
「じゃ、なんも問題ないやん」
私はこの時、春日公園での彼と弥生のやり取りを思い出していた。
彼には足枷なんて作って欲しくない。
それに、弥生のあの凛とした後ろ姿も大切にしたい。
何より、自分の気持ちをちゃんと知りたい……。
そんな思いを詰めた言葉を彼に送った。
「……」
傍から見れば、まるで私にお説教されているような姿で、小さくまるまった彼がじっと俯く。
「――お待たせ致しました」
そしてそんな彼を助けるかのように、ウエイターさんがパフェを一つ、さり気なく運んで来てくれた。
「ごゆっくりお召し上がりくださいませ。尚、コースターに描かれたことをして頂けますと、半額とさせて頂いております」
ウエイターさんの軽やかなお辞儀につられ、私達も深々と頭を下げてから、まず目の前に置かれた大きなパフェに目をやる。
すると彼が急に顔を赤くした。
「どげんしたと?」
「ん?……いや、別に……」
彼がパフェから視線を逸らし、もごもごと口を動かす。
「……これ、なんて書いてあるん?」
彼が、『やっぱりキターーッ!!』という表情をした(汗)。
「……あ、愛してる」
「!?」
パフェの中段を締めるバニラアイスの部分に、〔Ti amo〕とストロベリーソースで書かれてあり、一番上には、四角いチョコレートケーキが乗っていて、その上にちょこんとサンタクロースがウインクして座っていた。
「ふ……ふぅん……」
私は話題を変えようと、軽くパフェを持ち上げコースターを覗き見てみた。
「!?」
するとそこに描かれていたのは、「愛を込めて……」というメッセージと共に、女性のシルエットが男性シルエットの口元へスプーンを運び、パフェを食べさせてあげている絵だった。
「……」
彼もそれを直視して、俯き黙り込む……。
「と、溶けてしまうやろ!?」
「そ!? そうだね!」
「ぃ、一応……従わんと。半額やしね……」
「ぅ……ぅん」
「……」
「……」
「――はい!」
「!?」
ピクリとも動かない彼に、私は、スプーンですくったTiまでの付いた部分を身を乗り出し口元へと運んだ。
そして彼が目を瞑り、意を決して口の中へとそれを迎え入れる――
彼が口にアイスを含む時のスプーンの軽い重さが、私の手に伝わってきた。
それはとても新鮮で、ほんの些細なことだったけれど、彼の為に何かをしてあげられたことに私はすごく嬉しくなって、高鳴る心臓を抑えきれずに役目を終えたその手が少し震えていた――
「……お、美味しい?」
「う、うん……♪」
そして次に彼が、「ね、念の為……」と言って、スプーンを手に取りamoを私にくれようとする。
「……」
私は逆らうことなく目を上へと吊り上げて、顎を軽く突き出し、それを口の中へと含んだ……。
眉間にツンとするものを感じながらも、甘く刺激的なそのアイスは、私の火照る体の所為で直ぐに溶けてしまった。
「美味しかね……」
そうして私達は、熱いものを食べているかのように、冷たいはずのそのパフェを共同作業のようにして黙々と頬張った――。
「お、お待たせ……」
二人と合流したものの、「ケンカでもしたとか?」という、小永吉先輩の不思議そうな顔と、弥生のニター♬という、崩れた笑顔を横目に、会話がちぐはぐになりながらも家路へと着き、彼と二人きりになったその帰り道、私達は言葉を交わすことはなかったけれど、キラキラとした素敵な空気に包まれながら、隣同士、肩が触れ合いそうになる距離で歩幅を合わせて一緒に帰っていった――。