第16話
文字数 1,870文字
司会役のクラスメートの男女が、多数決の結果をクラス全員に伝える。
「それでは、このクラスの文化祭の出し物は、アニメイドカフェということに決定しました」
まだまだ夏が季節を譲ろうとしない九月。
私達のクラスは、アニメイドカフェをすることになった。
「栞、メイド服たのしみやね!」
「なん、弥生。あげな恰好したいと?」
「可愛かやん♬」
「……そうね。てか、そもそもアニメイドちゃなんね?」
「アニメとメイドの造語やろ? 」
「ふぅん……」
私はメイドの恰好に一抹の不安を覚えたが、確かメイド服というのは、靴下が膝上あたりまであった筈だ。
仮に膝が見えたとしても、今、私はピンク色の伸縮性のテーピングをその日の気分で好きなようにカットして貼り、それで傷痕が見えないように上手く隠していたので特に問題はないだろうと考えていた――。
そして着々と準備は進んで、文化祭当日。
それぞれのクラスでは、色んな出し物が行われていて、ウチのクラスの女子は限りあるその服を五人一組の交代制で着回し、空いた人達は自由時間という流れだった。
男子はというと、思い思いの役と服装で、「3番テーブル、3番テーブル、ご指名ありがとうございます。お時間ぎりぎりまで、どうぞごゆっくりお楽しみください」というアナウンスを地声で好き勝手に演出したりもしていた。
「いらっしゃい♪」
「甘露寺くん、エプロン姿よう似合 うとるね!」
私達は今、その空き時間を利用して彼のクラスに来ている。
「ありがとう♪ 何にする?」
「じゃ、私は鮭のおにぎりと豚汁!」
「わたしは梅でお願い!それと、あさりの味噌汁♬」
「了解♪」
彼のクラスは、おにぎりと汁ものをメインとした料理を展開していて、上々の客入りのようだ。
「古賀原さん達は、アニメイドカフェだっけ?」
「うん♬ 後で甘露寺くんも遊びに来 てん。サービスばするよ!」
「ありがとう。もう少ししたら交代の時間になるから、そしたら行くね♪」
そういって、彼は調理場としている廊下側の窓際へと戻って行き、手を洗い炊飯器を開く。
すると中からフワワ~ン♪と、白い蒸気が立ちのぼり、彼の姿を薄くした。
「……」
流石にあの衣装を彼に見せるのは躊躇われる……というか恥ずかしい。
そう思った私は、それと同時に『ぇ? なんで?』とも思った。
別に皆が着ているものだし、私自身、誰にも見られたくないとか、そういうふうに思っている訳じゃない。
なのに――
「栞、どうしたと?」
「へ!? 別に何でもなかよ!? ホント別になんとも思ってないけんね!? ただちょっと恥ずかしい気がしただけっちゃんねっ!」
「…………は?」
「……」
私は火照る顔のまま、素知らぬふうに目線を斜め上へと持ち上げた。
「……大丈夫ね?」
「も、もちろん……」
「ふぅ~~ん……」
「……(汗)」
弥生が目力を込めて私をじっと見る。
私は落ち着かず、視線をあっちこっちに飛ばしまくる。。。。
と――「お待ちどうさま♪」
彼がほかほかのおにぎりと、熱々の汁ものをタイミングよく運んで来てくれた。
「わぁ! 美味しそうやね、弥生♪ 早く食べんと、冷めてしまうよ!」
弥生の尋問から逃れるように、私は顔を伏せて箸をひたすら動かし、「美味しかぁ!」と、絶賛の声を上げ続けたのだった。
「――えーーーーっ!?」
ホクホク フーフーしながら、弥生の厳しい無言の追及をなんとかやり過ごしたそのあと、私達は交代の知らせを受けて、メイド服に着かえる為に女子トイレへとやって来ていた。
「どげんしたと?」
隣で着替えている弥生が、仕切りの向こうから驚いた様子もなく、上から声だけをこちらへ落としてくる。
「靴下、なんで白なん!? しかもちかっぱ薄かっ!!」
「それが、どげんしたと?」
『どげんもこげんもなか! こげな薄か靴下やったら、脛が丸見えやん!! メイド服いうたら、靴下黒やないとねっ!?』
私はイメージがきっちりと頭の中を支配していた為に、まるっきり靴下を確認していなかった。
『どげんしよう。テーピングば、持ってきてなか……』
自分の脛を見る……そこには、くっきりとした歪な皮膚のラインが、前と外側に広がってある。
「栞、早 よせんね!」
「……」
私は暗い表情を宿して、そこを後にする、、、、しかなかった。
「それでは、このクラスの文化祭の出し物は、アニメイドカフェということに決定しました」
まだまだ夏が季節を譲ろうとしない九月。
私達のクラスは、アニメイドカフェをすることになった。
「栞、メイド服たのしみやね!」
「なん、弥生。あげな恰好したいと?」
「可愛かやん♬」
「……そうね。てか、そもそもアニメイドちゃなんね?」
「アニメとメイドの造語やろ? 」
「ふぅん……」
私はメイドの恰好に一抹の不安を覚えたが、確かメイド服というのは、靴下が膝上あたりまであった筈だ。
仮に膝が見えたとしても、今、私はピンク色の伸縮性のテーピングをその日の気分で好きなようにカットして貼り、それで傷痕が見えないように上手く隠していたので特に問題はないだろうと考えていた――。
そして着々と準備は進んで、文化祭当日。
それぞれのクラスでは、色んな出し物が行われていて、ウチのクラスの女子は限りあるその服を五人一組の交代制で着回し、空いた人達は自由時間という流れだった。
男子はというと、思い思いの役と服装で、「3番テーブル、3番テーブル、ご指名ありがとうございます。お時間ぎりぎりまで、どうぞごゆっくりお楽しみください」というアナウンスを地声で好き勝手に演出したりもしていた。
「いらっしゃい♪」
「甘露寺くん、エプロン姿よう
私達は今、その空き時間を利用して彼のクラスに来ている。
「ありがとう♪ 何にする?」
「じゃ、私は鮭のおにぎりと豚汁!」
「わたしは梅でお願い!それと、あさりの味噌汁♬」
「了解♪」
彼のクラスは、おにぎりと汁ものをメインとした料理を展開していて、上々の客入りのようだ。
「古賀原さん達は、アニメイドカフェだっけ?」
「うん♬ 後で甘露寺くんも遊びに
「ありがとう。もう少ししたら交代の時間になるから、そしたら行くね♪」
そういって、彼は調理場としている廊下側の窓際へと戻って行き、手を洗い炊飯器を開く。
すると中からフワワ~ン♪と、白い蒸気が立ちのぼり、彼の姿を薄くした。
「……」
流石にあの衣装を彼に見せるのは躊躇われる……というか恥ずかしい。
そう思った私は、それと同時に『ぇ? なんで?』とも思った。
別に皆が着ているものだし、私自身、誰にも見られたくないとか、そういうふうに思っている訳じゃない。
なのに――
「栞、どうしたと?」
「へ!? 別に何でもなかよ!? ホント別になんとも思ってないけんね!? ただちょっと恥ずかしい気がしただけっちゃんねっ!」
「…………は?」
「……」
私は火照る顔のまま、素知らぬふうに目線を斜め上へと持ち上げた。
「……大丈夫ね?」
「も、もちろん……」
「ふぅ~~ん……」
「……(汗)」
弥生が目力を込めて私をじっと見る。
私は落ち着かず、視線をあっちこっちに飛ばしまくる。。。。
と――「お待ちどうさま♪」
彼がほかほかのおにぎりと、熱々の汁ものをタイミングよく運んで来てくれた。
「わぁ! 美味しそうやね、弥生♪ 早く食べんと、冷めてしまうよ!」
弥生の尋問から逃れるように、私は顔を伏せて箸をひたすら動かし、「美味しかぁ!」と、絶賛の声を上げ続けたのだった。
「――えーーーーっ!?」
ホクホク フーフーしながら、弥生の厳しい無言の追及をなんとかやり過ごしたそのあと、私達は交代の知らせを受けて、メイド服に着かえる為に女子トイレへとやって来ていた。
「どげんしたと?」
隣で着替えている弥生が、仕切りの向こうから驚いた様子もなく、上から声だけをこちらへ落としてくる。
「靴下、なんで白なん!? しかもちかっぱ薄かっ!!」
「それが、どげんしたと?」
『どげんもこげんもなか! こげな薄か靴下やったら、脛が丸見えやん!! メイド服いうたら、靴下黒やないとねっ!?』
私はイメージがきっちりと頭の中を支配していた為に、まるっきり靴下を確認していなかった。
『どげんしよう。テーピングば、持ってきてなか……』
自分の脛を見る……そこには、くっきりとした歪な皮膚のラインが、前と外側に広がってある。
「栞、
「……」
私は暗い表情を宿して、そこを後にする、、、、しかなかった。