第15話

文字数 776文字

「ふぅ」

 お風呂から上がって、私は今、自分の部屋にいる。
 ベットにゴロンとなって天井を見上げていた。

「楽しかった……と?」

 今日一日の出来事を……ううん、昨日の夜からを振り返ってみる。
 スマホを手に取り、LINEを見直す。

〈明日の夕方、空いてる?〉

〈うん。どうしたの?〉

〈ちょっとテニスするから、学校に一緒に行って〉

〈わかった。何時に待ち合わせする?〉

〈マンション1階のエントランスに――〉

「……」

 LINEの文字は、できるだけ読みやすいようにと標準語に努めてみた。
 そして今日という日を、どこか落ち着かない気持ちで迎えながら一緒に学校まで行き、お祖父ちゃんと顔を見て話しをして、彼とラリーをして、ペアを組んでダブルスまでしてもらった。
 
 ……やっぱり、楽しかった。
 
 どれが? ということではなく、一連のこと、全てが充実していた。
 
 ……でも、素直に受け入れられない。
 
 私は右脚を持ち上げスウェットをまくり傷痕を眺める。

「……」

 自分でもどういう心境なのか分からなかったけれど、私は今はじめて怪我と向き合う時間を作ったような気がした。

「?」

 するとスマホの画面が明るく輝いて、LINEがきたことを私に報せる。

 彼からだ――〈やっぱり、楽しそうだったよ!〉

「なん……もう!」

 枕元に置いてある、私の住む南区のゆるキャラため蔵くんに、どんたくのお祭りを意識して頭には笠、手にはしゃもじを持たせて作ったそのぬいぐるみを乱暴に抱き寄せ天井へ向かって放り投げた。
 ドフン!という音の後に、役目を終えたため蔵くんが、涙目で私の胸の中へと帰ってくる。

〈イタイ!〉

 どうやら、彼も部屋にいるようだ。

「バーカ(笑)」

 私は、ため蔵くんを優しく抱きしめた――。
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